怒れる魔術師
――とりあえず、お話を読んでくれたユーミに、ぱちぱちと小さく拍手をする。
少し頬を赤らめ照れているユーミはなんだかすごく可愛い。
このお話がとても好きなんだろう。
(……意外と重たい話だな。恐らく、この世界の子供たちに教えを諭す寓話。でも、”聖女や魔女”、それにモンスターや魔族の事も書いてあるみたいだ。ただのおとぎ話なんだろうか……)
「あ、このお話に出てくる”贈り物”って……?」
「うん、この絵本になぞらえて、特別な才能や能力は”神の贈り物”って、呼ばれているんだよ! 小さい頃は皆、この絵本を読み聞かせられるからね!」
(浦島太郎や桃太郎みたいなものなのかね?)
絵本について考察していると――
「「「ぎゃははは! 冒険者ギルドで何をガキの絵本なんぞ読んでやがる!」」」
――後ろから男達の笑い声が聞こえる。
(うぇー、本読んでただけでおなじみのイベント発生かよ……)
「ははは……すみません。僕がこの本を読んだことがなかったもので、彼女に読んでもらっていたんです」
椅子を立ち上がり、筋骨隆々の強そうな男たちに弁明する。面倒だし、当たり障りのない返答でやり過ごそうとする。
「なんだあ? こんな有名な本を知らねえ、って、おいガキ! お前よっぽど貧乏だったのか!? ミルクでも奢ってやろうか! それとも、子供向けの本の字も読めねえおバカさんだってのかい? ぶははははは!」
酒でも入っているのだろう、赤らめた頬で悪ノリしている男たち四、五人。
「あは。あはは」
面倒ごとを笑ってやり過ごそうとしていると。
――すぐ背後から、木でできた何かに(テーブルとか)、強烈な衝撃(例えば、鉄製の棒を強烈に叩きつけたような)が加わった音がした。
振り返ると、何となく予想できた光景が広がっている。
ユーミが杖を叩きつけ、無残に真っ二つになったテーブル、あらまあ、床にまで穴が開いてしまっている。
ユーミ本人は椅子にだらっと腰かけて、腕に持った杖をこれまただらんと垂らしている。
目は完全に据わっていて、カナメの前世の世界で言うところの、”ヤンキー”だ。
頭の上には「!?」こんな記号が浮かんでいるように見える。
「ヒッ、魔術師!?」
「ばかやろう、こんな小娘が魔術師なんてありえねえだろうが! それに……こんな腕力まで持っているわけあるか!」
男たちはすっかり狼狽えている。
オーサムの武器屋が言っていた、魔術師が少ないっていうのは本当のようだ。
「ね? ばかにした……? 絵本のこと? ……それとも、カナメをばかにしたの?」
質問しているのか……?
――いや、これは威圧をしているのだ。
「ま、まあ、嬢ちゃん。落ち着いてくれ。悪かったよ。俺たちはここいらじゃあちったぁ名の知れた冒険者で……」
リーダー格っぽい男がなだめようとすると――
〈ごうっ〉
――男の耳元、すぐ近くで人の頭ほどの火球が燃え上がる。
男は火の上がった場所に目線だけ動かし、こめかみのあたりから、ゆっくり冷や汗が流れる。
「次は、当たっちゃうカナ……?」
(いや、この子多分まじに当てようとしていた! たぶん、本気で外しただけだ!)
「くっ、おい、行くぞ! 覚えけガキども! おい、勘定だ!」
受付の方に去っていく男たちにカナメはホッとしてユーミを見る。
ユーミの目は相変わらず据わっていて、標的をロックオンしていた。
「ね……逃がさな――」
「いいってばああ、いいよ、いい子だ。落ち着いて! な、ユーミ!」
慌ててユーミの口元を手で押さえて静止する。
(怒らすとこんなに怖いのかよっ!)
危うく怪力で振りほどき、口の減らない冒険者を追跡しようとするユーミ。
何とか手持ちの甘味を口に放り込み事なきを得たが、今後の冒険に、注意事項が一つ増えた――。




