ある、絵本
冒険者ギルドの年季が入ったテーブルとイスは、しっかりと手入れがされていて、所有者や管理者の愛着が感じられた。
これからともに旅をする二人は、その席に陣取って自分たちの目的の確認をする。
「僕たちの目的は世界を救うことだ。いいか?」
「うん」
ユーミが理解しているようなので、話を続ける。
「でも、それって、どういうことなんだろうな? 魔族を滅ぼすこと? 魔族の王を打ち倒すこと? 僕たちは本当の意味で世界を救うってことを理解していない気がするんだよな」
自分の抱いた疑問を、このパーティーの疑問として考えてみる。
「そのどちらにしても、僕たちには足りないものが多すぎる。例えば魔族の王を倒す前提で考えてみても、絶望的に戦力が足りないと思うんだよな」
思いついたそのままだ。鉄棒をぶん回す魔術師と、記憶に残ったものを書き写すことができるだけのカナメ。
(絵だけじゃなく、自分が知らない文字だって、記憶してしまえば一瞬で描き起こすことができる。これは前回の魔族戦でわかった)
だけど、それだけだ。冷静に考えてみれば圧倒的に戦力が足りないのは想像にたやすい。
「うーん、あの時はかなり強いスクロールがあったから何とか勝てたけど、また同じような相手に出会ったら、どうやって戦えばいいか……」
考えると同時に口に出す。
「…………」
わからない。
この世界のことで、知らないことが多すぎるのだ。疑問点を洗い出し、相方に聞いてみる。ユーミの方がはるかにこの世界の先輩だ。
「なあ、ユーミ。魔族の王、ってどんな奴なんだ?」
「わからないよ、そんなこと知っていたら聖王軍の参謀さんくらいにはなっちゃうよ」
「うーん」
(そうだよな、精霊王(笑)も、魔族の本拠地は知られたことがないって言っていたし)
「そうだ、前に”ギフテッド”、って言われたことがあるんだけど、それってなんだい?」
「うん、才能や何かの技術に秀でたもの。神さまから授かったに違いない、そういう能力者をギフテッド、っていうことがあるよ」
「そうなのか……? この世界に神さまなんているのかねえ?」
そうぼやくと、ユーミは身を乗り出してくる。
「カナメは神さまの事を知らないの?」
言いながら鞄をごそごそと漁る。
「これ!」
そうして鞄から一冊の絵本を取り出し、両手で持ってカナメの眼前に突き出す。というよりすごい勢いで突き出したものだからカナメの鼻にヒットし、鼻血がでる。
だが、ユーミは気付かないようだ。カナメも怒らずにぐしぐしとハンカチで拭っていた。
絵本は自分で持って来ていたらしい。
「この本、見たことがない?」
「ないなあ……」
えー、という表情でカナメを見る。
ユーミが持ってきた絵本はこんなタイトル。
”この世界の神さま”
「ね、読んであげるよ!」
ユーミは、ごほん! と仰々しく咳払いし、絵本を朗読する。
***
「――昔々、
この世界に神さまがいました。
神さまはこの世界を作った、とてもちからのある神さまです。
世界を作って、植物や、動物を作りました。
満足していましたが、もっといい動物を作りたくて、
神さまに似た、”人間”を作りました。
繁栄していくそれらをみて、
よいものができた、と神さまは喜んでいたのです。
最高けっさくのそれらを、もっと近くで見たいと思って、
人間の姿に化け、地上におりたってみました。
ですが、ちからのつよい神さまを見ると皆はおびえてしまって、
むし達は身をかくし、
お花は花弁をすぼめてしまい、
どうぶつは巣に、人はその家に閉じこもってしまったのです。
「おやおや、これは悪いことをしてしまった」
神さまは大きな宝石がついた杖を作り出し、
ちからの半分を、みんながおびえないように杖にふうじこめて、
自分は”けんじゃ”、すこし力がつよいだけの
人間として旅をすることにしたのです。
ある日。
神さまは町で、弟を見下しては自分がすぐれると言ってきかない兄、そんな兄弟に出会いました。
人はすべて平等に作ったと思っていた神さまは心をいためて、
ひびが入った心のかけらから、”まぞく”が生まれました。
別の日。
神さまは森で、他の人が射たえものをうらやましがってばかりいる猟師に出会いました。
別に不足はしないのに、けっかをよろこべない猟師にまた神さまはきずつき、
われてしまった心のかけらから、”まもの”が生まれました。
次の日。
神さまは海で、いつもふなのりたちに当たりちらす、船長に出会いました。
自分もしっぱいするくせに、他の人をおこってばかりの船長にひどくがっかりして、
おっこちた心のかけらから、一匹の”ドラゴン”が生まれました。
よく晴れた日。
神さまはお城で、いつもお昼ねばかりしているみはりの兵士をみつけました。
ある時、兵士がねむっていたとき、てきにせめられてお城はほろびました。
あきれて心にひびが入り、心のかけらはまた一匹の”ドラゴン”になりました。
どしゃぶりの雨の日。
神さまはそのお城をほろぼして、奪った玉座にこしかける王さまに出会いました。
お城をてにいれても、つぎからつぎに他のまちを手に入れようとする王さまを見て、
神さまは心がくだけて、かけらから一人の”魔女”が生まれました。
人間を作ったのは失敗だったとひどく落ち込んでやけになった神さまは、八つ当たりで杖を地面にたたきつけ、
ひとつだった島はまっぷたつにさけてしまいました。
くだけた宝石のおおきなかけらから、一人の”聖女”、一人の”悪魔”が生まれて、
そのほかのちいさなかけらは世界中に散らばり、人々への”贈り物”となったのです。
聖女は人間の信仰をあつめて遊んで暮らし、
悪魔は宝石のなくなった杖を盗んで、地面の深く、暗い世界に逃げ込んで、
悪いことをした人間のたましいを食べて暮らしました。
ちからを失った神さまは”おろかもの”のすがたとなり、
いまもこの世界を旅しています。
――おわり――




