鋼鉄の杖
お城をあとに、城下町を出口に向かって歩く。
絶好の門出の日だ。
青空は雲一つなく、工場の油と、緑の匂い。
オーサムの町で必要なものをそろえる。傷薬、水、携帯食料、調味料、包帯、着替え、それらを入れる鞄。ユーミにも小さな肩掛けの鞄を買い与える。
戦闘のメインはユーミになるから、できるだけ日常品はカナメのクソデカリュックに詰め込む。
世界樹の枝の身体強化の効果によって、重さはいくらか、軽く感じるようだ。
町を歩いていると、王女であるはずのユーミには誰も気づいていない。王様が語ったように目立たないよう過ごし、城からあまり出歩かなかったのかもしれない。
そして、万事屋で世界地図を購入する。
「せかいちず を てにいれた!」
ついやってしまって恥ずかしくなりカナメは顔を赤らめていた。これはどうしても欲しかったアイテムだけに、テンションが上がってしまう。
ユーミがなにをしているの、という表情で見つめていたが、なにもわからない場所に投げ出される恐怖はまだ癒えていない。
「まずは、どこへ向かうの?」
「北だな、聖王様のおひざ元、『アルジエナ』までは、徒歩では何か月もかかるそうだ。いくつも町を超えるって話だから、そこで補給しながらいこう」
「うん、わかった!」
ユーミはずっとにこにことしながら道を歩いている。お城の外の冒険がきっととても楽しくてしかたがないのだろう。
「ユーミは、武器はいらないのか?」
「んー、本当は魔術で戦いたいんだけど、上手く扱えるようになるまでは、武器を使った方がいいかな?」
(……そういえば、小さいユーミは治癒の魔術を使っていたんだっけな。この十数年の間に、魔術が使えなくなる、何かがあったんだろうか)
強大な魔力をもつ少女がなぜ魔術をコントロールできなくなったのか。個人の問題か、それとも。
「ユーミの武器も買っていくか」
「うん!」
武器屋へ入ると、鉄の匂いを強く感じる。
(初めての武器屋イベントだ。ユーミは魔術師だから、杖がいいのかな?)
同じことを考えていたのか、ユーミは杖の売り場を物色している。
「いらっしゃい。お嬢ちゃんは魔術師かい。魔術師なんか滅多にいないからそれほど高位の杖はないが、そのケースに飾ってあるのは、そこそこの品だぜ!」
店主のおじさんが説明をしてくれる。
木の樽に無造作に突っ込んである刀剣の上、ガラス棚に飾ってある数本の杖は、確かに意匠も凝らされ、高級そうだった。
「むぅ~……」
ユーミは真剣に悩んでいる。
「魔術師って、滅多にいないんですか?」
先ほどの言葉が気になり、店主に質問をしてみる。転生前にはこれほど知らない人に話しかけることは得意ではなかったはずだが、こちらの世界ではそこまで物怖じしなくなっていた。命の危険にさらされることが多く、度胸がついたのかもしれない。
「ああ、そりゃ少ないさ。魔力自体はほとんどの人が持っているが、魔術を扱えるのは別だ。百人生まれて、一人か二人くらいが素養をもつ。素養がある百人を十回ほど集めたら、そっからまた一人か二人くらいは魔術を使えるっていう話だ」
(滅茶滅茶少ないな……)
「冒険者ギルドにお嬢ちゃんが入ってったら、スカウトの嵐で依頼書なんか探す暇もないだろうな! はっはっは」
店主と話をしていると、ユーミはまだ決め切れていないようで「うう」とか「むう」などと言いながら品物を見ていた。
「気に入ったのはなかったのか?」
「杖選びは難しいんだよ、杖によって得意な術法の強化だったり、魔力値の増幅、魔術攻撃からのレジスト、杖自体との親和性、考えることがいろいろあるんだから」
(ふーん、なるほどな)
カナメは武器など使えないから、今ある短剣と世界樹の枝で間に合わすことにしていた。聖女様の言った通り、身の丈に合わない格好いい剣などは取り扱えないだろう。
「うん、わたしこの杖にする!」
ややあって嬉しそうにユーミが選んだ杖は、武骨で重たい、鋼鉄の杖だった。
「こ、こんなのでいいのか? 魔術師が持つようなイメージないし、さっき自分で言ってたことまる無視じゃ……」
「一番安いし、強そうでしょ!」
「ふ、ふうん……」
意外と堅実に安い物を選んでくれた魔術師を意外に思いながら買い物を終えてカナメとユーミ、町の門に並んで立つ。
「さて、それじゃあ、町を出るぞ。 思い残すことはないか?」
「そりゃあいっぱいあるよ! でも帰ってからで、大丈夫!」
「オーケー、行くか」
「うん、行こう!」
――北へ。
面白そうと思っていただけたら、ブックマークや評価などもいただけると作者がよろこびます




