表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/21

第4話 守と悠斗の出会い

 翌日の列車内で、悠斗は陽子に聞いてみた。

「なあなあ、庄原しょうばら高校に行ってる大庭晃あきらってさ、お祖父さんがいるの?」

「いるわよ。私は大庭君の4つ上のお姉さんの麗華さんと親しいけどさ、「お祖父ちゃんはホントにいつもカープの話ばっかりよ」と言ってるよ。あ、立山と気が合うんじゃない?」

「そのお祖父さんさ、旭川スタルヒン球場で隣の席になって、話をしたよ」

「アハハハ!遠い遠い旭川で一緒になるなんて、凄い偶然だね!」


2日後、学校から帰宅して三次駅に帰り着いた悠斗は、駅待合室で偶然、晃に出会った。晃は庄原方面からの列車に乗って三次駅で降りた後、母親の迎えの車を待っていた。

「大庭、久しぶり!ところでさあ…」

「何?」

「君って、お祖父ちゃんいるじゃろ?そのお祖父ちゃんとさ、北海道の旭川で会ってたことが分かったんよ」

「それは面白いなあ」

「なんかまた会ってみたくなったよ」

「近々、うちの家に来いよ」


4日後の日曜日に、悠斗は大庭家を訪問した。悠斗の家から歩いて15分程である。晃と麗華が玄関で「よく来てくれたなあ」「ようこそ、悠斗君」と出迎えた。上がった先のその奥の居間で、大きなソファーにゆっくり寛ぐ守と出会った。笑顔が柔和である。悠斗もソファーに座る。守は悠斗のことを既に晃から聞いていたようで、対面するなりすぐに、

「そうやそうや、思い出したよ、君の顔を。8月に会って以来だな」と、懐かしそうに話した。

悠斗は「こちらこそ、またお会いできて嬉しいです」と言い、そして、「隣にいた、あの50歳ぐらいの人は、お友達ですか?」と尋ねた。

「そうだよ友達だよ。北陸の石川県金沢市の人だよ」

「どうしてそんな離れた所の人と、友達なのですか?」悠斗は驚いて目を丸くした。

「わしが金沢の球場にカープを見に行った時に、終わった後居酒屋でお酒を飲んでいて、出会ったんだよ。あの日の試合は悔しい敗戦だったけど、彼に出会えたのは嬉しかったな」

悠斗は未成年で、居酒屋に行ったことが無いのでちょっと実感を持ちにくかったが、とにかく、飲食店で仲良くなったことは想像できた。

「へええ、そういうことで仲良くなるんですね」

「カープファンはお互い兄弟だよ。店で一緒になったら、意気投合だよ!」

「お祖父ちゃん、私に愚痴の電話をした後で、ああいうことがあったのね。」横で聞いていた麗華が割って入った。和やかな時が流れた。晃を加えた4人で談笑し合った。守と悠斗は67歳もの年齢差であるが、守は孫の晃に優しく接していたので、その友人の悠斗にも優しく接した。厳格さは微塵も無い好々爺である。悠斗もすぐに打ち解けた。


次の日からはまた、高校生は通学する日々であった。12月に入ると期末テストが迫り、高校生たちにはピリピリとしたモードが漂った。

山根高校は男子校、幟町高校は女子校である。悠斗と陽子は、学校に異性生徒がいない寂しさから、次第に列車内で会話を交わすようになっていった。テスト前なので列車内でも参考書を読んでいたが、ついつい目を離して会話をしてしまう。

「勉強を一杯しないといけないし、部活は休みだし。早くテスト終わらないかな」と陽子が話すと、悠斗は「俺なんてカープがシーズンオフだし、親はこれ見よがしに勉強しろ、しろと言うし、毎日がつまんないよ」と返した。

「須川さ、彼氏はいるの?」

「女子校なんだから、いるわけは無いわよ」

「でも、サークルでは他の学校の奴と一緒になるんだろ?」

「活動中は真面目に勉強するんだから、恋愛なんてしないわよ。あんたは彼女いるの?」

「男子校だし、サークル入ってないんだから、いるわけないよ」

「カープ観戦の旅行に行った時に、女の子にナンパしないの?」

「仮に付き合えても、遠距離恋愛なんて無理だよ」

「まあ、計算高いわね。フフフ」


2人はお互いの学校で勉強を重ねた。模擬試験を受験してその結果を見ては、どこどこの大学はCランクだ、Dランクだ、と一喜一憂していた。そして2人とも同じ大学に合格し、入学した。広島市内にある公立大学である。JR山陽本線の横川駅から郊外団地方面のバスに乗り、長いバイパスを走って行った先にある大学である、さすがに三次からの通学は無理なので、2人とも横川地区での独居生活を始めた。2012年の春のことである。


独居生活は自分で自分の生活を管理しないといけない。2人ともそれぞれの自宅で、目覚まし時計をセットして、眠い目をこすって通学準備をする日々を送った。「実家だったら親が無理やり起こしてくれていたのになあ」と、2人とも思っていた。

その代わりに、高校時代以上に自由な生活ができた。悠斗はコンビニでのアルバイトを始め、それで稼いだ貯金で幾度もズムスタに行き、また全国旅行をした。陽子もスーパーマーケットで働いて、その給料をサークル活動に充てた。高校時代と同様、平和について考えるサークルであり、全国を回ってはワークショップを開催していた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ