第15話 突然襲った戦禍の恐怖
詩織は気が付くと、ズムスタの外野一階席に座っていた。隣には大学のサークル仲間の須川陽子がいる。観客はいつもの試合よりもずっと少なく、一階席も4分の1程度しか埋まっていない。その観客も、何だかいつもより元気がなく、どこか他の用事で疲れているように見える。
試合前のスターティングメンバー発表が始まった。後攻のカープのスタメンはこのようにアナウンスされた。
「1番 レフト 秋田」
「2番 ショート 並木」
「3番 センター 光岡」
「4番 ファースト 香川」
「5番 ライト 吉井」
「6番 セカンド 水野」
「7番 サード 沼田」
「8番 キャッチャー 江田」
「9番 ピッチャー 瀬山」
どの選手も、詩織は聞いたことが無い。思わず陽子に尋ねた。
「菊池涼介は何でスタメンにいないの?」
「彼は兵役に召集されたわよ」
「堂林翔太は?」
「彼も召集されたわよ」
「知らない選手ばかりじゃん」
「詩織、知らないの?レギュラーの選手がみんな召集されて、召集対象でない17歳の選手ばかり集めているのよ」
「ふーん」
試合が始まったが、なぜか2回表の時点で審判員が試合中止のアナウンスをした。少ない観客がぞろぞろ帰り始める。そして、こういうアナウンスが流れた。
「これにて本年度のプロ野球試合は全て終了いたします。申し訳ございません。」
詩織は、さっぱり状況を掴めない。
そうしていると、球場の西の方、廿日市方面から「ブオオオオ」という爆音がした。見上げてみると、おびただしい数の爆撃機がこちらの方へ向かってくる。爆撃機は広島市街地に次々と爆弾を落としてゆく。高層ビルから炎が上がり、崩れ落ちていく。詩織は唖然とした。ズムスタの観客からは、「キャアア!!」という悲鳴が上がる。
陽子は「何ぼーっとしてるの!逃げるわよ!」と詩織の手を引き、通路からコンコースへと走り出した。詩織は、爆撃機がこちらに来るのではという恐怖に駆られた。
爆撃機は爆弾を落としていくのを終え、北の方へと去っていった。「命拾いしたわね」と詩織は言ったが、陽子は「あ、ちょっと、あれ!」と叫んだ。
彼女の指差す先には、また新たな爆撃機が一機、球場の方へと飛んで来ていた。目を凝らして見ると、爆撃機には「B―29」と書いてある。詩織ははっと青ざめた。
B-29は球場の真上の地点で、爆弾を一つ落とした。詩織は思わず叫んだ。
「ぎゃああああああああ!!」




