今日は家に帰りません
「ごめんね、私。きれいじゃなくて」
『そんなことないよ、とても綺麗だ』
そう言って、あなたは私を優しく抱き寄せる。
月明かりに晒された肢体が、あなたの腕の中に収まる。
今日も私は、あなたの耳に心地よい嬌声を出せているだろうか?
あなたとの夜を、そればかり考えて不安に過ごす様になったのはいつからだろうか?
『君に汚いところなんてないよ』
ああ、またそうやって私を失望させる。
あなたが思い描くような私は、どこにもいないのに。
『もっと笑えよ』
優しさの欠片もない言葉と同時に浴びせられる平手打ち。
隙間の無くなった喉は、空気を通すことは無く。
痛い。苦しい。恥ずかしい。
そんな感情が入り混じる。
だけど、この人の前では何も演じる必要は無いのだ。
本能のまま獣のような声を上げ、奴隷のように媚びる。
そんなありのままの、醜くて汚い穢れた私。
この人はそんな私を受け入れてくれるのだ。
『旦那と俺、どっちがいいんだよ!』
聞かれると同時に、携帯電話が鳴った。あなたからだ。
もうこんな時間だもの。帰って来なければ心配するわよね。
私にとっての幸せを考えて、答えを出した。
「あなた、ごめんなさい」