第八話 京ちゃん
草壁「お疲れ様です。課長、自分の机の上に置いといたファイルが見当たらないんですけど、課長持って行きました?」
犬山「それなら野沢君が持ってるよ」
草壁「、、、なんで!?」
犬山「本人に聞いて」
草壁「ちょ、タマちゃん?人のモノを勝手に持って行っちゃ駄目って子供の頃に教えて貰わなかった?」
野沢「だって草壁さんに聞いても駄目って言うに決まってるじゃないですか」
草壁「そりゃそうでしょ。だからって勝手には良くないよ?」
野沢「勝手にじゃないですよ。ちゃんと課長にも次長にも断って許可を貰ってますから」
草壁が犬山のほうを見ると彼は目をそらした。
草壁「てか、次長にまで話を持っていったの!?それで良いって言われたの?」
野沢「そうですよ」
犬山「だから私も許可したんですよ」
野沢「草壁さんこそ、自分より強い相手とケンカをする時は先に先生にチクったもの勝ちって子供の時に習わなかったんですか?(笑)」
草壁「いや、俺はどちらかと言えば、、、」
野沢「チクられる側だったんでしょ?(笑)」
草壁「まぁ」
【以下、草壁の少年時代】
京介「はーち、きゅーう、じゅ!」
京介が目を塞いでいた腕を下ろすと、神社の境内の階段の所に黒装束を纏った人がこっちを向いて座っていた。
京介は初めて見かけるその風貌に戸惑いながらも、隠れている友達らの動きに神経を集中することにした。
すると。
黒装束「そこのお坊っちゃん」
京介「俺のこと?あの、あなたは誰ですか?今、ケードロの最中で忙しいんだけど」
黒装束「私は総代と言って、この神社の世話役をしてる者です。今日はカラスが鳴くものですから、みんなには先に帰ってもらいました♪」
カラス(アー、アー、アー)
京介「えーなんだよそれ、変なの。じゃあ俺もかーえろ」
黒装束「そうですね、そのほうが良さそうです。あと今夜はお外に絶対出ないようにしてくださいね?」
京介「なんで?」
黒装束「ンー、怖い目に合うかもしれないから(笑)」
京介は普段遊ばせてもらっている神社の関係者と名乗る人物にペコリと頭を下げると、他に誰もいなくなったというのもあって心細くなり、自転車に乗ると「帰るなら一言くらい声かけてくれたらいいのに、、」とブツブツ言いながら急いで家に帰るのでした。
その夜、食卓にて。
父親「お前、あそこの総代に会ったのか?本当にその人、総代って名乗ったんだよな?」
それまでテレビを見ていた父親が京介と母親が会話しているのを聞いて真顔になって尋ねると、母親も顔色が変わっているのを京介は感じ取った。
父親は電話をしてくると席を外し母親は今から、お爺ちゃんたちが来て大人同士の大事な話をするから二階でゲームでもしてなさいと京介に言った。普段、ファミコンばかりしてという母親の促しように釈然としないも京介は親の言うとおり、二階へ上がるのでした。
その後しばらくして、祖父母らが来たらしく。そこから時折一階からは、お爺ちゃんと父親の荒げるような声とお婆ちゃんの「そんな大きな声で、、、」と嗜めるような声で会話の内容の端々くらいは聞きとれた。
それはおおよそ
祖父「草壁の家から、、、鬼切が、、、誉れ高いことじゃろて、、」
父親「ゆうて、、俺と血は繋がっとらんから、、」
京介にとっては神社の話よりもソチラのほうが衝撃的であった。その後、祖父母らが帰る際に母親から呼ばれて挨拶をしに行くと、両親と祖母らの難しそうな顔とは対象的に祖父だけがいつもの感じで「京介、お前は自慢の孫やぞ」と頭を撫でて帰るのでした。
翌日、両親に「もう、あそこの神社には遊びに行くな」と釘を刺されることになる。
京介は「海にも行くな、神社も行くなて、遊ぶとこがなくなるやないか」と抵抗するも、逆に海のことを思い出すハメになり渋々と承諾したのでした。
その海の話というのは、今日のように食卓を囲んでる時「海で仰向けに浮かんでたら海水パンツを引っ張られて沈んだかと思ったら水面が1メートルくらい先に見えて、マサオらの悪戯かと思って這い上がったらアイツら向こうのほうで泳いでたんや。なんやったんやろな、アレ」という京介の発言を聞いた父親から「やから、お盆には海に行くなとゆうたやろ!」とこっぴどく叱られたのち、しばらくして親が漁師の友達から「あそこで女の人があがったんやて。警察も来てた」と聞かされたという話である。
そして。
マサオ「京ちゃん、なんで昨日先に帰ったん?刑事ばっかりやから、どくれたんやおもて心配しとったんやで」
京介「いや、みんなが先に帰ったんちゃうん?」
マサオ「空き缶ほったらかしにしたままおらんくなったから、みんなで探したんやけど、たぶん帰ったんやろて(笑)」
京介「まぁええわ。あそこの神社、えらい神様祀ってるから遊ぶなて親に言われたんよ」
マサオ「そうなん?そしたらヒロくんち行く?ミニ四駆のコースあんねんて」
京介「そやな、そうしよ」
第八話(終)