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鬼切怪奇譚  作者: 藤崎要
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第五話 染井 吉乃




吉乃「それで私を捕まえに来たんですか?(笑)いったい何の罪になるんです?」


草壁「いえ、捜査機関ではありませんから。ただ、おそらく素性とかはもうバレてると思うんで正直に話したまでです。催眠術師に嘘ついても仕方ないでしょ?(笑)」


吉乃「えぇ、確かにここは催眠術で深層心理から心のケアを行う所ですけど。なので特に御用が無いのでしたら、お引取りいただけますでしょうか?」


草壁「だから自分にも催眠術をかけてもらいたくて来たんですよ」


吉乃「どういうことかしら?」


草壁「ちょっと前に同僚がね、最近彼女ができたとかなんとか言っておりまして。でも彼女の写真を一枚も持ってないもんだから、どうせマッチングアプリの相手を彼女と勝手に思い込んでるんじゃないかと(笑)まるで催眠術にでもかけられたみたいにね。それで、そういう催眠術みたいなものが本当にあるのなら自分にもかけてもらいたくて。ソイツがココに通ってたらしく。あくまで私用ですよ」


吉乃「お客様ひとりひとりのことをそこまでは覚えていないですけど、一応守秘義務がありますから。でも施術をお望みでしたらどうぞおかけになって♪」


 それから。


吉乃「どうです、少しは癒やされましたか?♪」


草壁「ええ、本当に催眠術ってあるんだなって思いました(笑)」


吉乃「それは良かったです。疑い深い方には効き目が薄いんですよ(笑)」


草壁「そうなんですか。こんな綺麗な方を疑うなんて、ね?(笑)」


吉乃「、、、。じゃあ、サービスでもう一つ催眠術をかけましょうか?」


草壁「えぇ、是非お願いします♪」


吉乃「あなたはだんだん私を好きになる♪」


草壁「それならもうかかってるかもしれないですよ(笑)」


 それから草壁は吉乃の元をちょくちょく訪れた。


吉乃「今日は草壁さんがラストのお客様なんです。良かったらこのあと一緒に食事でもどうです?」


草壁「え、良いんですか?喜んで♪」


吉乃「いつも一人なんでたまにはって、でも草壁さんなら大丈夫そうだし(笑)」


 そして。


草壁「まさかの自宅とはね」


吉乃「こう見えて料理は得意なんですよ。手料理とかは嫌かしら?」


草壁「いや、全然(笑)是非お願いします」


 食事を終える二人。


草壁「ごちそうさまでした。ほんとお料理、とても美味しかったです♪」


吉乃「いえ、どういたしまして♪お口にあって良かったわ」


草壁「ところで、吉乃さんて時々【人が変わる】とか言われたりしない?」


吉乃「え?突然、何を言うのかとおもったら。変わり者とはよく言われるけど(笑)」


草壁「なら良かった(笑)あなたの笑顔がたまに仮面(ペルソナ)に見える時があるんですよ。悪く思わないで欲しいんだけど、心から笑ってるようには見えなくて」


吉乃「やめて、仕事柄仕方なくよ?嫌なことだってもちろんあるけど、お客様が癒やされに来られてるのにそんな顔できないし。でも、いつも笑顔が素敵って言われるのもほんと耐えられないわ。まるで、そうしていろって言われてるみたいで」


草壁「、、、なら今くらいは自然でいいんじゃないですか?」


吉乃「、、、そうね(笑)」


 吉乃は席をたつと部屋を出ていった。草壁は何処かへ電話をした。しばらくして吉乃が戻ってきた。


吉乃「草壁さん、これが私のありのままの姿。これでも綺麗って言ってくれる?」


草壁「吉乃さんは嘘をつくのがほんとは苦手な人ですよね。だから最後まで嘘を突き通すことができない」


 吉乃は草壁にゆっくり近づくと、後ろ手に隠していたナイフで襲いかかった。二人はその場に倒れ込み、草壁はナイフの先を吉乃の手首ごとかわす。


 【ダン!】

 

 寸での所でナイフは草壁の顔をそらしフローリングの床に突き立てられた。


吉乃「どうしてバレたのかしら?」


草壁「俺は根っからの嘘つきなんで、ハナから信用してないんです」


 草壁はナイフを取り上げ立ち上がるとポケットから取り出した布にソレをくるんだ。


吉乃「ハハハ、アハハハ!あなたはなんて可哀想な人なの?人を信じることも愛することもできないなんて。でも、もう大丈夫♪あなたも眠りにつきなさい」


草壁「それはどうだろう」


 吉乃は表情の無くなった顔で首をかしげる。そのとき草壁のスマホに野沢からの着信が入った。


野沢「草壁さん、ありました。あとは言われたとおりにしておきましたから」


吉乃「?」


草壁「このナイフと他にもう一つ、あなたが持っているべきではないモノがお店のほうにあると思ったんで」


 吉乃はその場にへたりこんだ。


吉乃「せっかく上手くいってたのに」


草壁「あなたは催眠術をかけていたつもりかもしれないけど、あなた自身がコレらに暗示をかけられてたんですよ。新たな生贄を用意するための手先として動くように。だからこのままだと、あなたは間違いなく地獄行きだったんです。良かったんじゃないですか、これで」


 吉乃の頬を涙がつたった。


吉乃「これから私、どうなるんですか?」


草壁「さぁ。我々は捜査機関ではないので後のことはわかりません。でも礼状なしで家宅捜索や差し押さえはできるんです。品物は回収したので、もうあなたにできることは無いでしょうし。ただ一つ今のあなたに言えることがあるとしたら、誰しも自分を偽ることはあるけれどソレは自分を良く見せるためにするんじゃなくて誰も傷つけないためにすることなんです。それをわかってくれる人もまたいるはずです」


 そう言って草壁は吉乃の部屋を後にした。そして。


犬山「お二人共、お疲れ様でした♪」


野沢「ほんとお疲れ様ですよ、映画館に居たのにいきなり呼び付けられたんですから!」


草壁「でも、タマちゃんに頼んで良かったよ。おおよその範囲は絞られてたとはいえ女性の隠し物は女性に任せたほうが良さそうだからね。課長なら間に合わなかったかもしれないし(笑)」


犬山「私も一応手伝ったんですよ?いや、確かに野沢くんはお見事でした。あんなところに隠してるとは」


草壁「コレらは昔、儀式のとき生贄に使われていたモノなんですよ。催眠効果のあるものが仕込まれていて犠牲者は痛みを感じることもなく。でも恨みは当然こもってますから人が持ってて良いようなものではない。ナイフと仮面は対になっていて、どちらか片方が奪われそうになっても、もう片方がその対象に影響を及ぼすという仕組みで、前任者はソレにやられたというわけ」


犬山「なるほど。その彼なんですけどね、まだ会話はままならないようですが意識のほうは取り戻したみたいですよ♪私は草壁くんなら催眠術にかからないんじゃないかと思ってました」


草壁「どういう意味ですかソレ?(笑)」


野沢「草壁さんは普段から、人の話を聴かないので。ですよね?課長(笑)」



第五話(終)

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