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鬼切怪奇譚  作者: 藤崎要
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第三十四話 闇にうごめく者たち

 その夜、福島の妻子がいる家に異変が起きた。外でやまないクロの吠える声と時折、家の壁に激しくぶつかるかのような物音と鈍い振動。しかし遠藤から事前に伝えられていたのは【クロの吠える声が聞こえたらそれが止むまでは、けして絶対に外へは出ないように】と。


 そして、それは一刻ほど続いたあと突如静かになったのでした。横たわるクロの周りに蠢く者たち。そして月明かりに照らし出されるのは森野木陰の姿。


森野「よく頑張ったね、あとは僕に任せてゆっくりやすむといいよ」


森野は息も絶え絶えに舌を出し横たわるクロにそう優しく声をかけると、クロは安心し目を閉じたのでした。


森野「ギリギリ間に合ったってところだけど。でもね、僕の友達を傷つけたことは許されない。たとえ今ついしがた、友達になったとしてもね?」


 福島の妻子がいる家を取り囲んでいたその者たちは、クロから手傷を負わされるもなお殺気を失うことなく目的を果たそうと森野の行く手を阻むよう佇む。


しかし、森野から発せられる静かで穏やかな気配とは裏腹に彼らが感じ取ったのは、怒りなどといった感情ではなく、あえて言葉で現すとするならば【無そのもの】を前にした例えようもない圧である。それは人類にとって途方もなく果てしない、闇も光も存在しない宇宙を目の前にしたときに自身の存在すらも忘れかけてしまう、一つの存在を相手にしているというよりも、もはや空間、世界そのものを相手にしたときの無力さを覚えるような感覚だと言える。


森野「わかるかい?それが君たちが言うところの【死】というものだよ。つまり今、君たちがソレを感じているとするならば、既に君たちは死んでいる。ということなんだよ」


 その時、クロの声が止むのを待ち外へと出てきた福島の妻子たち。


福島の妻「これはいったい何があったんですか?」


 そこには激しく争ったはずである跡が何も残されてはおらず、ただ青年がクロを両腕に抱え立っている姿が


森野「無事で良かったです。クロのおかげですよ」


福島の子「クロ、死んじゃったの?」


森野「大丈夫、クロは強いから死なないよ。でも傷を負ってるから手当てが必要なんだ。でも安心して、もう脅威は過ぎ去ったから」


 そこへ森野のあとを駆けつけてきた車数台のうち一台から不死根が降りてきた。


森野「クロをよろしく頼みます。急いで」


不死根は他職員にクロの救命を急ぐよう指示し、彼らは先に車で引きかえしていった。


不死根「突然、いなくなると思えばそういうことでしたか」


森野「ごめん、急いでたから(笑)」


 何が起きたのか未だ理解が追いつかず呆然としている福島の妻に森野は


森野「遠藤さんに連絡をしたいんだけど、取り込み中かもしれない。でもたぶん、あなたが渡されてるはずのモノなら連絡がつくかもしれないので少しお借りできませんか?」


福島の妻は考えこむが、クロがおとなしく彼に抱かれている姿を思い出し、遠藤から渡されたスマホを森野に手渡した。


 そして。


森野「ええご安心ください、福島さんの奥さんもお子さんもご無事ですから。クロはこちらでしばらく預からせていただいたのち、ご主人様に元気な姿でお返し致しますよ。そちらも事が済んだようでなによりです。ではまた後ほど」


 第三十五話(終)

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