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鬼切怪奇譚  作者: 藤崎要
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第二十九話 明晰夢



 薄暗い倉庫のような所で男達がたむろして何かを話している様子。


男A「まるで何しに来た?って顔してるな。ちょっと前まで仲間だったのによ。心配するな、お前らのことは何一つ話してねぇから」


男B「そうか、悪いな」


男C「お前が刑務所から出てきたら俺達なんでも協力するからさ」


男A「勘違いすんな。俺はお前らのためにやったんじゃねぇから。あくまで俺自身のためにやったことだからよ。俺は自分のやったことを綺麗事にして生きていきたくねぇ、ただそれだけだ」


 男Bと男Cは黙り込んだ。


男A「お前らもいずれわかるよ、この世界は何千何万回も誰かが同じように同じことを何度も繰り返して来ただけなんだって。つまり今度はお前かお前が俺になる番ってわけだ(笑)」


 福島はその様子をここ最近、夢の中で何度も見てきた。これは自分が担当してきた何れかの事件の裏側なのか?というよりも、周りにそう話してる男が自分なのか、それともその話を聞かされてる連中の誰かが自分なのかすらもわからなくなってきていた。そして彼は今日も目覚めるのである。


福島「また同じ夢か」


 ベッドから起き、リビングへと向かう。リビングに繋がっているダイニングキッチンのテーブルに置かれた食べ物は手を付けられることもなく置かれたままの状態である。ふと、床に目を落とすと白い粉のようなものがこびりついていた。


福島「カビか?もうそんなに日が経ってるのか」


 そして項垂れながらソファに座り込む。福島はある日を境に自室のあるマンションから出られなくなっていた。最初のうちこそ起きて部屋を出て廊下を歩き、エレベーターに乗り階下へと向かおうとする自分がいたのだが。それらは何れも夢の世界の出来事で、幾通りものパターンを繰り返し試すもののけして外へ出ることは叶わず、気づけばまた自分の部屋のベッドの上で起きるというのを繰り返していたのでした。


そして外の廊下には得体の知れない何かがいて、ソレに襲われるたびまた意識を失う。エレベーター内で襲われたときは電気が消え暗闇の中、応戦したもののドアが開く前に夢だと気づきまた自室のベッドで起きることになる始末。


そうやって何かと戦うことも含め何度か試したものの、そのたびに自室の机の引き出しに置いてある拳銃とその弾が消費されている事に気づき【残りは弾が1発だけ】の状態で、もはや外へ出ることすら諦めたのであった。


 (おそらく今度もまた夢だろう。いや待てよ、おれはまだ試したことがない事が一つだけあった)


ソファからゆっくり起き上がると、福島は朦朧としながらベッドの上にうつ伏せに倒れ込む。そう、ベッドから起き上がるのではなくベッドで再び寝る事はこれまで試した事が無かった。


 (もしこれで駄目なら、いよいよ最後の手段しかなくなる)


福島は再び眠りにつこうとしていた。ただ、今までに感じたことが無いほどの脱力感が彼を襲う。目をつぶっているのにも関わらず、意識はハッキリとしており部屋の光景が頭に浮かんでくる。まるで金縛りのような状態で体は動かない。仕事で疲れた時にもよくなる事だが、このまま魂が抜けると死ぬかのような、なんとも例えようのない気持ち悪さ。でも今はその思いつきに賭けるしかない状態。気づけば眠りについていた、そして。


福島は拳銃に残りの弾を込め、自らの口の中へと銃口をさしこむ姿を眺めていた。おそらくコレは夢だろう、主観ではなく客観視だからである。そしてそのまま引き金をひく。そのほんの一瞬だけ、福島は銃口から硝煙と火薬のニオイをハッキリと感じたのでした。


【そうか、これは夢ではなく現実だ。夢はニオイを感じない】と。


 第二十九話(終)

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