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鬼切怪奇譚  作者: 藤崎要
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第二話 草壁京介



草壁「これで良しと。お〜い、外観調査は済んだから、タマちゃんもこっちに戻って来ていいよ〜」


野沢「あまり下の名前で呼ばないで欲しいんですけど。私だからいいですけどね、それも一種のセクハラですから。それにしてもこの家、絶対おかしいですよ。計測するたびに家の大きさが誤差の範囲どころじゃないくらい変わるなんて」


 野沢がウォーキングメジャーを自身の足元でコロコロさせながら言う。


草壁「だよね。だから俺たちが来てるんだし」


野沢「というか、本当に中まで入るんですか?」


草壁「じゃないと報告書が書けないもん。別に嫌なら俺一人でもいいけどさ、規則で二人以上行動が原則だし。でも俺がそのまま帰って来なかったら、今度はタマちゃん一人だけでココに来なきゃいけなくなるかもよ?今うちの部署、ただでさえ人手不足だから内勤の君まで駆り出されてるわけだし」


野沢「嫌なこと言わないでくださいよ。行きますよ!」


 草壁は束になっている鍵の中から一つを選び門の鍵を開けた。


野沢「中もなんか気持ち悪い感じですね。でも、ちょっと前まで人が住んでたんですよね?ココ」


草壁「あぁ、事業家の女性が錯乱状態で保護された事件知ってるでしょ?ココがその家」


野沢「聞くんじゃなかった。あれ、服用していた薬の幻覚作用とか一時色々報道されてましたけど結局なんだったのかわからないまま風化しましたよね」


草壁「真相を解明したところで誰も得しないような話だからね。というか二次被害が出ないように報道規制されたのもあるとはおもうよ、そういうので再生数稼ごうとする不届きな連中が出てくるから」


野沢「あー、それで?怖いもの知らずというか命知らずというか。うわ、あの植物とか見るからになんかヤバそうな雰囲気だしてません?」


草壁「あれは普通にアロエだよ。タマちゃんて面白いなぁ(笑)」


 そして、草壁は家のドアの鍵を開けこう言った。


草壁「さっき渡した手袋つけといてね。あと土足のままでいいから」


野沢「はい。鑑識はとっくの昔に終えてるはずですけど土足で構わないんですか?」


草壁「うん。あのタフな鑑識の連中らでも今回、何人か倒れたらしいから(笑)だから気休めかもしれないけど念の為にね。ま、あまり中のものには触らないほうがいいんだけど、そういうわけにもいかない場合あるし。でも素手はやめといたほうが良いから」


野沢「わかりました。草壁さんの指示に従います」


 草壁が家のドアを開けると中の湿度に野沢のテンションはさらに落ち込んだ。


野沢「なんですかこれ?」


草壁「不思議だろ?湿度に重さが加わったみたいな息苦しさ。そのわりに結露のない乾いた空気感という矛盾。あまり長くは居られなさそうだから、さっさとやることやって終わらそう」


 草壁は家に上がり込むとカバンから【〇〇専有物件に付き立入禁止 不法侵入となります】と書かれたパウチをドアと玄関の上がり口にガムテープでしっかり固定した。


草壁「これで良しと」


野沢「勝手に入ってくる人とかいるんですかね」


草壁「後で外に立て看板を業者が取り付けに来る予定だから、まずないとは思うけど一応念の為ね。こういう物件は行政が自然に落ち着くまで管理するようになってるの。でも表向きはそういうわけにも行かないものもあるから民間を装うこともある。その〇〇って会社も実在しないからね」


野沢「そんなことして大丈夫なんですか?」


草壁「細かく言うとウチの関連法人ではあるんだけど、あくまで表向きの話で便宜上そういう事にしておかないと社会的な公平性が保てないから建前では存在させてるのね。タマちゃんは内勤だからそこまでは知らないと思うけど現場ではわりと普通の話だよ」


野沢「私、今回の件が終わったら異動願いを出そうと思います。なんか思ってたより闇が深すぎて」


草壁「あまりフラグは立てないほうがいいよ?(笑)さ、さっさと他もやってしまおう」


 そして二人は草壁の作業を野沢が見守るような形で家の中を進んでいくのであった。


野沢「あの、私さっきからモノを手渡したりほぼ見てるだけなんですけど、なんか手伝いましょうか?」


草壁「いいよ。見て覚えろじゃないけど自分でやったほうが早いし、ちょっとは役にたってるから(笑)覚えたいなら教えるけど、現場やりたいの?」


野沢「いや、いいです。でもなんか、うちの祖父がこういう現場仕事の一人親方をやってて。子供の頃、こうやって付いて回って見てたのをなんか思い出して」


草壁「似たようなもんだよ。俺も葬儀屋さんがテキパキ仕事こなしてるのを見てスゲー!自分には無理だって思ったもん(笑)結局は慣れだけどね。さぁ、これで1階はあらかた済んだから問題の2階へ行くか」


野沢「問題の、、、?」


草壁「ま、でも最初に比べたらだいぶ落ち着いてはいるよ。今の所これと言ってまだなにも起きてないでしょ?居住者がいなくなって影響が弱くなってるのもあるだろうけど。あ、言うの忘れてたけどさ、俺のそばから離れるなよ。帰れなくなるかもしれないから(笑)」


野沢「言われなくてもそうしますけど、大事なことは最初に言っといて欲しいですね」


 そして二人は問題の2階へと上がる。草壁は階段両脇を懐中電灯で照らしながら野沢にこっちへついてこいと指示をする。


草壁「えーと。こっちのこの部屋が、、、あぁドアの破片に気をつけてな」


野沢「なんか争った跡のような感じですね」


草壁「そうだね。で、こっちの部屋が〜」


野沢「ここ、子ども部屋みたいですね。カーテンが綺麗だし、真新しいおもちゃとか並んでて他の部屋に比べて雰囲気が穏やかというか」


草壁「被害者には、お子さんいなかったそうだけどな?」


野沢「、、、」


 草壁と野沢が廊下に戻ると、奥の方からタタタという何かが走るような音が聴こえた。


野沢「ネズミ?」


草壁「じゃないよ、歩幅が違う。アレは子供の足音だよ。そろそろ時間かもしれないね」


 野沢は肩をこわばらせながら草壁のほうを見る。先程から草壁が猫のように、自分の後ろの真っ暗で何も見えないであろう所を明かりで照らすこともなくジッと見つめながら話をしているからだ。


草壁「野沢、今から良いと言うまで絶対うしろ振り向くなよ?絶対に」


 野沢はコクコクと頷いた。

草壁はそのまま野沢の肩越しに


草壁「そのままひとりで地獄に行ってろよ!」


と振りかぶったかと思えばいきなり何かを殴り倒した。それは空中のなにもないような場所であるはずなのに確かに何かがソコにいて打音を立てたのだ。ソレは壁のような無機物が出す音ではなく【肉と肉、骨と骨とがぶつかり合ような音】そしてソレが床に叩きつけられて跳ねかえる音であった。


草壁「タマちゃん、行くよ?」


 草壁は野沢の手を取り足早に来た所を戻る。野沢は、ふりほどかれないよう草壁の手をしっかり握りながら息も絶え絶えにあとをついていく。そして無事に玄関を出て、ようやく息を整えた後


野沢「アレ、なんだったんですか!?」


草壁「わからん。でもアレが出て来たら、いよいよヤバいってのはわかってたから。でも数を相手にはできないし、ここらが潮時ってことだわ」


野沢「草壁さんて何者なんです?いつもこんなことやってるんですか?」


草壁「別にタマちゃんと同じ公務員だよ(笑)もっと怖くて気持ち悪いので危ない目にもあったことあるけどね。でも誰かがやらないといけないことだから。じゃあ、ちょうど定時近いし帰ろっか」


野沢「あの、途中になってしまってますけどソコは良いんですか?私はもう二度と中に入りたくないですけど」


草壁「うん、でもこれ以上はね(笑)それより建前というか体裁として一応中に入って仕事をしたという事実のほうが大事だから」


野沢「私、日報に怖い目にあわされたりセクハラされましたくらいしか書けませんよ」


草壁「タマちゃん、それはね(笑)かえって誤解を招くというか。じゃあ、仕事帰りにラーメンでも奢るよ?」


野沢「そういうのも今はセクハラなんですよ?(笑)まぁ奢りなら」


 

 第二話(終)

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