第十四話 アベコベとチグハグ
傘がたいして役に立ちそうにもない土砂降りの雨の中、草壁は急いで駐車場にとまっている車の助手席に乗り込んだ。
草壁「遅くなってすみません、遠藤さん。仕事が立て込んでたもので」
遠藤「いや、こちらこそ急に呼び出してごめんね。それも仕事明けに。あと申し訳ついでに草壁くん、タバコ持ってるかな?待ってる間にきらしてしまったみたいで」
草壁「自分、電子タバコなんですよ」
遠藤「若いね(笑)」
遠藤はそう言うと胸ポケットからサラのタバコを取り出した。
草壁「持ってるじゃないですか(笑)」
遠藤「今、思い出したの(笑)じゃあ行こうか」
車は雨の中、より人気の無くなった町を西へと走りだしたのでした。
草壁「酷い雨ですね」
遠藤「うん、でもそのほうが都合良いかもしれないし。それにレプリカはともかく本物までコッチに置いとくわけにはいかないでしょ?」
遠藤は後部座席にあるボストンバッグを目で追った。草壁もソレを見て
草壁「入ってるんですか、黄泉銭」と。
遠藤「うん。待ってる間も重い空気をずっと醸し出すんだもん(笑)ま、証拠品はレプリカで十分だから。でもソレは元の場所に返しておかないと」
車は町からだいぶ離れた、とある山中のくねった細い道を登っていく。
草壁「迷惑な話ですよね」
遠藤「ソレを持ち出した奴がいるとしたら、封も外されてるに違いない。でもこのままほっとくと、もっと迷惑な事になるでしょ?(笑)」
雨がやむ気配もないまま、車は昼間ですら利用者がいるのかわからない何処かの駐車場に入り停車した。
遠藤「この傘持ってって」
草壁「自分は傘持ってますけど。あー、そういうことですか?でも遠藤さんこそどうするんです?」
遠藤「俺、カッパ着るから♪バッグ持たなきゃいけないしライトもいるからね。それにホラ、代わりに俺はタバコを二箱持ってるから。普通のやつと電子タバコと」
草壁「持ってるじゃないですか(笑)でもソレで大丈夫なんですか?」
遠藤「たぶん、ね(笑)草壁くんもいることだしなんとかなるよ」
二人は準備を終えると駐車場から続く階段を登るのでした。
遠藤「傘、なんか二刀流みたいでカッコいいね(笑)小学生のときよく壊してたなぁ」
そして。
遠藤「ほらね、封が剥がれてる。両方無くなってる所を見ると故意に剥がされたのかもしれないけど。おそらく今回がはじめてじゃないのかもね」ライトで照らしながら言う。
草壁と遠藤の前には社屋の見当たらない鳥居があり、そこの両端に紙が削られたような跡が残っていた。
草壁「じゃ、くぐりますよ?」
遠藤「お先にどうぞ」
二人が鳥居をくぐると土砂降りの雨はやんでいるのでした。
草壁「此処で間違いないですね」
遠藤「俺の捜査能力、みくびらないでよ(笑)さ、急ごう」
誰もいないなんのためにあるのかもわからない夜道を進むとボンヤリと祠のようなものが見えてきた。
遠藤「ここだね、見つかる前にさっさと終わらせよう」
遠藤は祠の扉をあけ、ライトで中を照らしながらバッグをあけ、中のものを床に広げた。バラバラバラと音がする。遠藤は空になったバッグを折りたたむと
遠藤「音、鳴らしたからのんびりしてたら来るよ、急いで戻ろう」
草壁と遠藤はもと来た道を足早に引き返す。しばらくして後ろのほうでザワザワと誰かが何かを話してるような声が聞こえたが二人は当たり前のように無視と無言を貫いた。鳥居をくぐると遠藤は新しい封を両端に貼り直し、二人は駐車場に停めてあった車に戻った。車を走らせてからだいぶたったころ、そこでやっと遠藤が言葉を発した。
遠藤「こっちの雨、やんだみたいだね。じゃあ向こうは今頃、土砂降りだ」
草壁「あー、それでわざわざ天気が悪い今日を?」
遠藤「そういう事、また一つ勉強になったね♪」
草壁「それともう一つ、タバコもチグハグで行けるんだって事も」
遠藤「あー、ソレはどうなんだろね(笑)一応、ほら靴下をチグハグに履いてきてたんだよ」
【アベコベとチグハグの説明】
狭間の世界を出入りするには、特に戻るためには持ち物をチグハグにしておく必要があるらしい。あくまで【らしい】としか言えないような話なのでソレで必ずしも元の世界に戻ってこれるとは限らないので、念の為。特にアチラの世界の住人と会話を交わすなどは絶対してはいけないと言われているので、言葉を聞き取れないような【アチラ側が晴れ】であるアベコベの状況を遠藤は選んだということだそうです。なお、草壁は傘を広げてさす方とたたんで持つ方とでチグハグにしていた模様。
【説明、以上】
遠藤「さぁ、これで後は捜査に集中するだけだよ。草壁くん、ありがとうね。助かったよ♪」
草壁「いいえ。職務なら断れたんですけどね、これは勤務時間外なんで(笑)」
第十四話(終)