第十二話 黄泉銭
ここは某庁舎の2階南側に位置する、とある会議室。
コンコンコン、ガチャ。
野沢「失礼します、お疲れさまです」と、なんで呼ばれたのかわからない様子の野沢。
犬山「あぁ、お疲れさまです」と、ホワイトボードに【研修中】と書いた紙をマグネットで四隅に止めている最中の犬山課長。
草壁「お疲れさま。ドアの鍵、一応かけといてね。部外者が間違って入って来たらいけないし」と、そして机の上に何かを並べている様子の草壁。
犬山「どこでも適当な椅子にかけてね。でも机の上のモノには絶対触っちゃ駄目らしいですよ?」
野沢「またいわくつきのってヤツですか?」
草壁「まぁね。今の所、その可能性もあるとしか言えないんだけど。そこらへんも含めてのお勉強会だよ♪嫌だったら別に受けなくてもいいけど?」
野沢はテキトーな所に黙って座った。その様子を見て犬山も野沢の横に座った。
草壁「じゃあ準備ができたから始めましょうか」
草壁は白いテーブルクロスの上にいくつか置かれた茶巾袋の中から一つを取り出し、クロスの上に中身をばらけた。
犬山「なんですかこれ?」
その中身とは大小様々な形をした石ころや鉄くずに細工を施したようなモノで、棒が二本上に並んで接着されていたりそれぞれが珍妙な代物でした。
草壁「タマちゃんも初めて見るって感じだね(笑)コレは【黄泉銭】と俺が呼んでるものでわかりやすく言うと、あの世の通貨ってとこかな」
【黄泉銭とは】
天国でも地獄でもなく、あの世との狭間で用いられる通貨の総称であり、俗に言われる三途の川の渡し賃、冥銭とは異なるものである
【以上、草壁の解説による】
草壁「タマちゃんも都市伝説とかで聞いたことがあるとは思うけど、○○駅とか我々の現世に似た世界に迷い込んでしまったって話があるじゃない?」
野沢「作り話じゃないんですか?(笑)」
草壁「おそらくだいたいがそうだろうけどね(笑)でもその世界は現世とはとてもよく似ているけど何かが微妙に異なるんだ。そこでココは違う世界なんだって気づくんだけど、例えばソコにある通貨とかもね?あとこっちの鎌なんかも【逆さ鎌】と言って鎌の刃先が逆に柄につけられてるようなモノもある。これじゃどうやって草を刈るんだよ?って思うけどね(笑)」
犬山「扱いづらいだろうねぇ」
野沢「あの、まさか作り話に出てくるようなモノを本気にしてるんですか?」
草壁「まぁ落ち着いて、本題はソコじゃないから(笑)で、コレらは捜査機関から預かったものなんだけども、俺が調査した所さらに見つかりかなりの数にのぼったということなんだ」
犬山「けっこうな数がありますけど」
草壁「民家の木とかに吊るされていたり、人気のあるような所にあえて人に気づかれることが無いよう置かれていたりする。昔は軒下とか床下でよく見つけられたんだけど今はそういう入り込めるような建物もあまりないからね。おそらく、発見されたモノ以外にもまだ他にもたくさんあると思われる。それでコレらの指す意味ってなんだかわかるかな?」
野沢「呪い、とかですか?」
草壁「正解。本来この世にあるべきではない、あの世のモノを意図的に配置するとしたら良い意味で置かれてるワケがないからね。もちろんコレらはレプリカだろうけど、うっかり触ると何が起きるかわからない」
犬山「なるほど」
野沢「つまり、誰かが誰かを呪ってるってことですか?でもそんなこと誰にもどうにも対処出来ないんじゃないですか?」
草壁「そう。我々は捜査機関ではないし、仮に発見されたとして建造物侵入罪くらいだと思う。警察も大変だね、ウチに証拠品の保管を頼むくらいだから(笑)今回はタマちゃんも予備知識として知っておいたほうがって思って、これから現場に同行することがあった際、余計なモノに触れてしまったりすることで呪われたりしないようにってことで」
犬山「怖いですね、気をつけましょう」
草壁「ま、人を呪わば穴二つって言われるよう、他人の不幸を望んだ人間の行き着く先は地獄行きだから。無関係ならなおさらそういうのに巻き込まれないようにしないとね」
野沢「勘弁願いたいですよ。私、まだ観てない映画とか山程あるんで」
第十二話(終)