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鬼切怪奇譚  作者: 藤崎要
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【特別編】第壱話 繁栄を生む家

ホラーとは【理不尽の塊のようなもの】だと私は思います


【前編】


大家「辻さん、いるんでしょ?大家の秋本です」


辻「はい、今出ますから。今月分の家賃は払ってるはずですが?滞納してる分はもう少しだけ待ってもらえませんか」


 辻はそう言いながら玄関のドアを渋々開けた。


大家「そのことなんだけどね、ちょうど良い話があって」


 大家の秋本が言うには、ちょっとした手伝いをする代わりに今現在滞納している家賃2ヶ月ぶんをそれで帳消しにしてくれるということらしい。3ヶ月滞納で追い出されるということを踏まえれば今月分は払えたもののすでに2アウトにまで追い込まれているような状況であり、目下就職活動中の辻には断る理由も選択の余地もほとんどないに等しかった。


辻「滞納してる立場でなんですが、それっていったいどんな話なんですか?いくらウマい話でも、うまくいかなかったらダメとか、誰もやりたがらないようなヤバい仕事とかそんなのは無理ですよ」


 とそれでも一応は食い下がるも


大家「ま、多少はね?。でも前金だから引き受けてくれたらその時点で約束は守るよ。君は言われたとおりにやってくれるだけでいいから」


 と言われ少し安堵する。


辻「まぁ、それなら。で、いったいどんな仕事なんですか?」


大家「やってくれる気になったかね?じゃあ今晩ここへ、この手紙を持って行ってくれれば交渉成立だ。あとはそこで聞いてくれ。これはなんというかまぁそういうしきたりみたいなもんなんだよ、すまないね」


 辻は滞納分の家賃に相当する報酬でありながら仕事の内容が依然不明のままという事には釈然としないも、いざとなれば土壇場で断ればいいかくらいに思っていた。ただ手紙の表に押されていた【鬼切神社】の御朱印というのはこの辺りの氏神様であるということもあり、その時点で犯罪のニオイがするような胡散臭い話ではないということだけは判明したので、とりあえず話を聞きに行ってみることにした。ただ、夜中の2時にという大家が帰り際に後出しでつけ加えた意味深な指定には若干不満と嫌な予感がついてくることにはなった。


 午前2時、当たり前というか人気も全くなければ明かりもほとんど無いような神社へ一人で行くというのも、いざとなれば薄気味悪いと感じるのは日頃心霊や超常現象的なものを一切信じていないような辻という男でさえもそこは誰でも同じである。相手もよくそんな時刻にこんなところを待ち合わせ場所に選んだなと思うし、むしろこれでいなかったらもう後は大家にすべて責任転嫁してやればいいとすら辻は思っていた。


 が、そんな辻の浅はかな考えと甘い期待は虚しく、待ち合わせ場所には辻の到着とほぼ同時くらいに依頼者とおぼしき姿が現れた。月明かりと懐中電灯に照らされたその姿は、えらく小柄に見え当初は老人を想像していたもののその声は男性とも女性ともとらえられるような高さで、声質的に子供ではないにしろ明らかに【若い】という印象を受けた。何しろ頭巾のようなもので顔をほぼ覆っており全身黒ずくめの黒子のような装束の姿はもはや怖さというよりも謎の部分が勝っており早く正体を聞き出すことに気がいって仕方がなかった。


黒装束「きたきた、あなた秋本氏に頼まれてきた方ですよね?こんな時刻にここへ来るような人なんて他にいるわけないですし(笑)」


 という待ち合わせ相手のあっけにとられるような、あまりにもくだけた話し方で、この人物がこの世のものであるという安心感を得られたものの、本題を聞き出さないことには話が先に進まないので


辻「あの言いにくいんですが、まだ引き受けるとは言ってないですよ?。ここへ来れば仕事の内容を教えてもらえると聞いたもので。決めるのはそれからでもかまいませんか?」と尋ねた。


黒装束「それはもちろん♪でもあなたは必ず引き受けてくれるでしょう。なるほど、人の良いお顔をされておられる」


 黒装束の人物は代々鬼切神社の総代のような役目をしているらしく、ただでさえ早口でまくしたてるような喋り方なので、途中何度も落ち着いてといっては「はいはい♪」と快く承諾は得られるものの、気持ちが焦っているのか性格的なものなのか、いまいち話の要領がわかりづらく、何度か繰り返して聞くことでやっと内容を把握していくことが出来たのだが、要は【ある人を自分の代わりに助けてあげてほしい】というのが仕事の大まかすぎる内訳であった。


黒装束「とにかく、ことは急を要するものでして。本来なら我々がと言いたいところなんですが立場的に難しいというか、実際動けたところでそれもそれでまた別の問題が生まれるわけでして」と歯切れの悪い様子。


 辻は結局、人助けと言われても具体的に何をすればいいのかわからないことには引き受けるかどうかすら返事もできないことと、せめて段取りだけでも教えてもらうことはできないかと改めて伝えた。


黒装束「わかりました。まずここのお家に向かってください。その住人をその家から外に出してほしいのです。」

そう言って黒装束は住所と名前が筆書きで書かれた紙を懐から取り出して手渡してきた。


「そしてそのために必要とあらば貴方の持っているその手紙を見せればこの町の大半のかたたちは我々に協力してくれるはずです。」と。


辻「自分以外に頼むということは?」


黒装束「もはやここまでくれば乗りかかった舟でございましょう?。あなたは必ず引き受けてくださるはずです。なぜなら、そこのお家に住んでいる方の【命に関わる】ことなので。我々が直接関わることができないのも奴らに感づかれた時点で直ちにその方の命が危険に晒されるからなのです」


 辻はなぜそんな重要なことを今まで黙っていながら自分が引き受けると思うのか?

罪悪感を与えれば断りづらいだろうという黒装束のなにか自分という人間の性格を見透かしたかのような失礼な態度には内心イラっとさせながらもやはり話を詳しく聞かざるを得ないという気持ちになる自身にもイライラぜざるをえなかった。


【中編】


 辻は正直、最後まで納得はしていなかった。大家の秋本はもちろん、黒装束にも結局まんまと依頼を引き受けさせられた自分自身に対しても。ただ実際、案内された例の家の前に来てみて、その荘厳でもありながら異様な佇まいを目の当たりにして、これは手のこんだ悪戯とか冗談などではなく【得体の知れない何かが絡んでいる】ということを感じずにはいられなかったのである。もとは日本家屋の旧家のようでありながらある種、時代ごとのエッセンスみたいなものが所々に入り混じったような増築を重ねており、近所に聞き込みをしたところ誰もが「よく知らない」「気味が悪い」「あの家には関わり合いたくない」と言葉を濁す始末。ただ表札はまだ新しくつけかえられた様子があり、そこには【森 知里】という黒装束から伝えられていた人物の名前があった。


 そうして辻が何日か様子見や情報収集に足繁く通ううちに気の毒に思ったのか、あるいは不審者と感じて事情を探り入れているのか声をかけてくれる人も中には現れ、少しずつこの家やそこの住人の情報を得ることもできた。この家は昔、やはり名家か何かであり元々の家系がなんかしらの事情で途絶えたあとどこかの社長だったり資産家らが住むたびに増築を重ねていき、近所ではその様子よりかねてから【繁栄を生む家】と呼ばれていたらしい。


 ところがある頃からか【住人が居なくなる】ということがどこかしこから囁かれだし、それも行方不明だとか夜逃げとか不穏な噂が飛び交うものの、事実を知る人は誰もおらず。それもそのはず引っ越ししたてのころはまだ挨拶やら顔を合わしたり会話をすることもあるのだが、移り住む人のいずれもしばらくすると家からぱったりと出てこなくなる。気がつけば空き家になっていて売りに出されているということが続いていたわけだ。そして、誰の所有かもわからぬまま長年の間、住人がいなかった状態だったのだが今年にはいりまた人が住むようになったということである。その住人も当初は引っ越しの挨拶やらで見かけていたのだがここ数日か数週間かは近所の誰もその姿を見ていないということ。ただ夜には部屋の明かりが灯り、人の気配は確かにあるなどということはわかった。


 そういう理由があって、あまりあの家には関わるなとその付近では昔から有名ないわくつきらしく。あの家に越してくるのは基本的に他県や遠いところから来た連中で、現在住んでいるのもいわゆるヨソ者であり、おそらく何も知らないまま気の毒にも移り住んだのだろうという話であった。


 辻は何とかこの家の住人に連絡を取る方法はないかと考えた。とにかく住人の安否さえ何らかの形で確認できたなら、あとは【住人を家から外に出す】ことさえできれば良いわけで。それが例えば近所に歩いている人もいるだろうに、なぜ我が家にわざわざ道を尋ねてきたのかわからないような明らかに不審者と思われようが、依頼の目的さえ一応果たしたこととなれば、後のことまではさすがにどうなろうが知ったことではない。証拠なら、適当な地図でも書いてもらえれば良いだろう。

 

 が、残念ながら以前にはあったであろう位置のインターフォンは取り外された形跡があり、全体を外壁で囲まれている上に門は閉ざされていて敷地内に入ることもできないという始末。当然、不法侵入という言葉も頭によぎる。辻はその時点で半分やる気をなくしていた。が、どうしても【住人の命が関わっている】という言葉がひっかかる。ならできるだけ詳細な情報を得て方法が他にないか考えた。

 

 そして、この家を取り扱っていたらしいという不動産屋の情報を得たことで、そこで話をまず聞くことにした。もちろん普通で考えれば住人の個人情報などは教えてくれるわけがない。しかし、それ以外の方法が思い浮かばず、またこれまでの話が逆に本当に悪戯の類いなどではないのかどうかを確かめる意味でも、あることを試してみる必要があったのである。


 辻は唖然とした。黒装束に言われたとおり、例の手紙を不動産屋に見せたら態度がそれまでの不審者扱いから豹変し、けして友好的になったというわけではないが、まさか他人の個人情報を目の前に差し出す店主の不可解な行動などはコレらが悪戯やドッキリといったものではないことをあっさりと証明させてしまったからである。


店主「本当にこれで勘弁してくださいよ?それにこれは別に私が売買に直接関わったわけではなくて手続き上事務的な話で仕方なく引き受けたまでで、貴方からもそこらへんくれぐれも鬼切の総代に言っておいてくださいよ」と頼んでもいないのに家の図面まで出してきた。辻は図面をしばらく見ていたが、どうも腑に落ちないというかそもそもこの家は住人が代々入れ替わるも【何らかの意図をもって増築を重ねている】ような気がしてならなかった。そして目的通り、現在の住人の連絡先となっている電話番号も入手した。



【後編】


「ママ〜、お体の具合は良くなったの?」


「うん、ごめんね。ママ、最近なぜかすごく疲れるの。ずっと眠くて何も手がつかなくて。ごはんもなかなか作ってあげられなくて、出来あえのものばかりで」


「ううん、ママ、いいの。ゆっくり休んで早く元気になってね。じゃあ学校に行ってくるね」


 知里は娘を送り出すと、重い体をなんとか支えながら寝室に向かおうとした。


 この家に来てからしばらくの間は何をしても順調であった。数年前に起業した事業もさらに順調に伸びていき、今もこうして社長の自分が長期間、病気で休職中にも関わらず部下達が会社を勝手に回してくれているおかげで自分は特に指示することすらもなく報告を受けるだけであり、お金には特段困らない状態。にも関わらず、そうして裕福になればなるほど体調に異変が生じる。どの医者に診てもらうも原因は不明で、仕事が忙しいことによる過労だろうという答えがほとんどだった。ただある精神科医だけは住んでいる家の構造などがストレスの原因になっているのではと言っていたが、この家は自分はもちろん娘のためにも色々考えて都度リフォームしながら自分も娘も気に入っているのでそれはないと思う。なのになぜこんな目に合わなければならないのか?仕事絡みで誰かの恨みをかってしまったのか、建築資材に良くないものがまぎれこんでいるのか?とにかくこのままではいけないことだけは確かである。


「明日にでも一度、娘を親にでも預けて入院でもしようか」そう思って2階へ向かう階段を登りかけたときのことだった。


「痛!」左足に何かひっかけたのか横に裂いたような薄い傷とジワジワ浮かぶ血の跡が現れた。でも周りを見ても何も原因となるような飛び出たものはなにも見当たらない。傷の手当てをするために薬箱の置いてある台所へ向かうとそこに奇妙な生きものが我が家の包丁を片手に持って現れた。膝の半分ほどまでしかないその生き物は映画か何かで見た【小鬼】と表現するのが相応しく、でもその体の大きさにしては十分なほどの恐怖心を与える眼光の鋭さと何かを企んだような口元の笑みとそこから見える牙。その悪意の塊とも言えるような生き物が包丁という【道具を使う知能】を有しているという怖さは野犬よりも格段に本能に響くものであり、咄嗟にその場を離れ家から逃げ出すことに決めた。

 しかしなぜこのような家にしたのか自分でもよくわからないが、玄関までの道のりが今更ながら遠く感じる。というより、家の中がこんなに広いわけがないはずなのに行けども行けども外に出ることができなくなっている。

「痛っ」今度は右肩あたりに痛みが走った。今度は服が切り裂かれており、そこから血が滲み浮かび出している。さっき見た【小鬼】とは少し形状が異なるも同じように片手にハサミを持って自分の仕業といわんばかりに柱につかまりながらここから先には行かせないぞとこちらを威嚇している。

 気がつけば色んな種類の小鬼が至るところから現れては家から出すまいと刃物などを手にチラつかせながらスキあらば切りつけようと待ち構えて湧き出しているようである。もはやこれまでかと知里が思ったときカーディガンのポケットに入っているスマートフォンから電話が鳴った。

「あなた森さんですよね?私、辻と申します。今あなたに何が起きてるのか、もし間違ってなければハイと答えてください。【あなたは家から出られなくなっている】あっていますか?」


「ハイ」と知里は力なく答えた。電話の相手は間髪入れず「わかりました、今から私の指示するとおりに進んでください。まずそこの廊下から右の部屋に入ると脱衣場があるはずです。トイレと風呂場の窓からは出られそうにないのでもう一つの扉から廊下に出てすぐの階段を登り、なんとか2階へ上がってください」


 知里はいち早く家から逃げ出したいのにかえって出られなくなるようなワケがわからない指示に不穏になりながらも電話口から聞こえる【人の声】というものを今は信じて頼るしかなく、ただ言われるがままに従って進むしかなかった。その間も体には時折、小鬼が悪戯するかのように傷つけ、逆にその痛みのおかげで現実逃避で気を失いそうになるのを引き止められているかのような錯覚さえ起こす始末である。

 そして指示通り進んだ先の部屋は普段雨の日に部屋干しなどで使っているベランダのある部屋でそこで初めてやっと外の景色が見えるところまで来て一瞬安堵したものの、鍵をかけた扉の向こうではガリガリとおそらく小鬼たちが刃物で削るような音と電話口から予想外の指示が伝えられた。

「そのベランダから外に飛び降りてください」と。


今まで飛んだことのない高さに当然足がすくむ。


「早く、そこから飛び降りるんだ!家が邪魔してくる前に自分を信じて、早く!」


 それと同時にドン!とこれまでとは違い一際大きく扉に与えられる衝撃と音がした。ドアには包丁の刃先が半分ほど突き出ていた。これまでの威嚇とは異なり、それは明確な殺意のこもった一撃だと知里は感じた。そしてもう一刻の猶予もないことを現している。結局言われるがまま、必死に恐怖心に抗い、目をつぶり足から飛び降りた。


 着地らしい着地とは言えず、小鬼から受けた傷だらけの顔や手足にさらに地面に転がったときに加えられたような傷やらアザなどもうどの時点で出来たのかも区別などはつかなくなっている。しかしとにかく家から出ることはできたのだ。ただただ、命だけは助かったと思った。


 間もなく電話から助言を行っていた辻という男が現れ、そこから敷地の外に半ば引きずられるようにしてあの家から無事に逃げ出すことができた知里の前には娘の姿があった。


「学校はどうしたの?でも良かった。もうあの家には戻っちゃ駄目よ。わかった?」


「お母さん。私、お家に忘れ物をしてきちゃったの」


「そんな物あとからいくらでも買ってあげるから、もうあの家にだけは戻っちゃ駄目なの!」


しかし娘は知里の手を振りほどくと「でも大切な物だから」と言って知里が必死になって止めるのも聞かずに家まで走ってあの家の中へ入ろうとしている。


 知里はその後を精魂尽き果てかけた体で、足がもつれながらも慌てて追う。


「だめだ、そっちへ行ってはいけない!」


 辻は必死に娘を追いかけようとする知里の腕を掴み離さない。


「あなたも見てたでしょ!?娘が家に入ろうとしているのよ。ほら今も私を呼んでるでしょ?この手を離してよ!」


 辻も手を離さぬよう力を込めるあまり息をあらませながら必死になって説得する。


「待ってください!頼むから落ち着いて。私にはその娘さんの姿は見えません。あなたに子供はいないはずです。自分の調べた限り、あの家に住んでいたのはずっと、あなた一人だけでした。表札にもあなたの名前しか無かった。近所の誰も娘さんの話をしたことはないし、不動産契約書の同居人も居ませんでした。あと娘さんの名前、今思い出せますか?」


知里はなお抵抗するも「名前?」と、その言葉を聞いたあと辻の言う通り自分だけにしか見えていないという娘の名前が今はどうしても思い出せないのである。そんな母に対してなのかそれまで娘であったはずの何かの姿が一瞬悲しそうな顔をしたあと小鬼の顔と重なり、ようやく獲物を諦めたかのような笑みに変わるのを感じ取った。そして知里は辻のほうを振り返り、放心状態になって崩れ落ちそのまま気絶した。辻の目には遠目にそれまで半開きのまま開いていた玄関のドアが何者かの手によって静かにゆっくりと閉じていったのでした。



エピローグ


 辻は病院で知里の両親から感謝とお礼を渡され一旦は断ったがキリがないのと先を急ぎたかったので有り難くいただくことにした。神社へ依頼の件の結果を報告へ向かう途中、自分が見ていたあの家の図面を改めて確認していた。今は落ち着いている様と言っては変な話だが、実はあの時、辻が電話をしながら目にしていたのはあの家の図面をタブレットにコピーさせてもらったものであった。本来、スキャンで取り込んだ図面が勝手に変わるなどということはあり得ないはず。それがゲームかなにかのように自身の目の前で随時変化していたのである。最初はなにかの見間違えかのように思っていたのだが、経路を確認するたびに玄関へ続く道がまるで果てしなく遠く伸びているような変化を感じた。やはり動いていると。つまりソレは現在進行形で、この家がまるで今いる中の人間を外に出さないように動いているということであり、それはまた【生きている動物が消化するため時間をかけ獲物を外に出さぬよう動いてる】ということも意味していた。

 【繁栄を生む家】というのはそうして人の命を取り込むことで自らを大きくしていくような化け物の姿そのもので、後に知里から聞いた話と合わせれば小鬼の住処でもあったということだと理解した。


 そしてこの話の続きは結論から言うと、辻はその後、鬼切神社に向かうも神主には会えたが件の黒装束に会うことはできなかった。神主の話では「うちの例の総代が表に出て来られるときはだいたい決まってそういう方が後から訪ねて来られて、そこではじめてわかることになる」のだと。つまり【そういう事も世の中には稀にあり、それもご縁】ということらしい。そして神主は辻から渡された手紙を開き中を一瞥すると深々と感謝と礼を言って「約束は守られたから安心してほしい」と伝えてきた。そして【また何かの縁があるまでは、自ら詮索をしたり関わりに行くような真似だけはおやめなさい】と忠告もされたそうです。



 よって今回はこれにて。また続くご縁がございましたら、鬼切神社やこの町にまつわる怪奇譚などを語らせていただきたく思います。ではまたの機会をお楽しみに

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