前編
私は貴女になりたい。
そうすれば、彼の一番近くにいることができるから。
◆
王子は私の一番大切な人だった。出会いこそめでたいものではなかったけれど、私にすべてを教えてくれたのは彼だ。彼は自分を殺めようとした私を許し、受け入れた。その手の温もりを、今も鮮明に覚えている。
だからこそ、私は貴女が羨ましかった。
エアリ・フィールド。王子と奇跡のような出会いを果たした彼女は、あっという間に王子の一番になった。王子は彼女を大切に思っているようだったし、彼女もまた王子を大切にしていた。二人の視線は確かに重なっていて。
きっとそこに私の居場所はない。
それがいつも辛かった。
彼女が王子を誰より大切にしてくれていることは知っている。その気持ちを、揺らぐことのない覚悟を、偽りのものと切り捨てるつもりはない。彼女が王子に真剣に向き合ってくれていることは分かっているし、きっとそれは王子にとって良いことなのだろう。
王子に大切な人が増えるのは嬉しい。
けれども、彼が離れていくような気がして、どことなく悲しくもある。
正直自分でもよく分からないことが多かった。王子が笑っていると嬉しいのに、なぜこんなに辛いのか。この心の動きは一体何なのか、掴めない。とはいえ誰かに尋ねることもできず。ただ息苦しい時間だけが過ぎてゆく。
それは、やまない雨のもとで雨宿りしているようなもの。
いつか晴れるのか。日差しが降り注ぐ時が訪れるのか。それすらも分からないまま、ただただ虚しさを抱き続けていた。