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加藤良介 短編集

美しい世界

作者: 加藤 良介

 私は芸術家だ。

 私は美を探求している者だ。

 美とはなにかというと、言葉にはできない。

 だが、それは遭遇した瞬間に、圧倒的な説得力を持って誰にでも理解できる強さを持っている。

 私も同じ強さを持っている。

 そして、その強さを世界に対して示さねばならない。

 それが、私に課せられた唯一の義務なのだ。 

 この、高貴なる義務を遂行する道のりは遠く果てしない。

 終わりなどないのだ。

 この世界を美で満たす前に私の命は尽きるだろう。

 だが、その礎を築くことぐらいなら可能だろう。


 話がそれた。美とは何かの話に戻ろう。

 美とは人間そのものだ。

 人間的なものにこそ、美が宿る。

 近頃は人の心の内面などという下らないもに美を求める連中がいるが、全くの無駄な行為だ。

 人の心の内面などと言うものは突き詰めると、野生であり本能であり獣の習性だ。

 獣は獣。美ではない。

 美とは獣の野生を切り捨て、真に人間的な理性のみによって構成されるものなのだ。

 それを、誰も目にも明らかにするのが建築だ。

 建築は自然にできることはない。

 自然に人が手に加えることによってのみ生まれるのだ。

 そのままではただの石くれが、人の力を借りることによって白亜の輝きを与えられるのだ。

 獣には千年たっても出来はしない。

 建築こそ美の集大成だ。

 私は芸術家であり建築家でもある。建築物への造詣は深いのだ。

 建築物によって千年後への指針としよう。


 芸術家である私は、美を構築する義務がある一方。もう一つの義務もある。

 真なる美の世界を構築するためには、美を構築するだけでは不完全だと言ことだ。

 美を妨害するものを排除しなくてはならない。

 妨害する者は何か。それは醜である。

 醜は取り除かなくてはならない

 簡単に言えば掃除だ。

 どんな名画を掲げていても、部屋がゴミだらけでは話にならない。

 掃除をして名画に相応しい部屋にしなくてはならないのだ。

 目についたゴミは一つ一つ丁寧に取り除く。 

 手間のかかる作業ではあるが、一度片付けてしまえば、後はこの美しさを維持するだけだ。

 さほど時間はかからないだろう。

 美を構築し、醜の掃除が完了すれば、完璧で美しい世界が広がるのだ。

 そのような世界を構築するのが、芸術家としての私の責務なのだ。

 実に崇高な使命であり責務であろう。

 多くの困難が私の前に立ち塞がるだろう。

 しかし、私には強固な信念と崇高な義務がある。

 最終的にはそれらは私の足元にひれ伏すだろう。

 その瞬間には私は生きてはいないだろう。

 だが、人類は私の築いた礎の上に、新しく美しい世界を構築すると信じている。



       1937年4月9日   ベルクホーフにて

 


              終わり

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] これは確かに彼の内面の世界観の良い解釈だと思います。 そのすべての行動を実行する政治家としての意志を与えるのは、イデオロギー全体のロマンチック化です。 [気になる点] 1937年4月9日の…
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