色
本当に頭のおかしいものなので悪しからず。
真っ白な空間がどこまでも広がっている。影さえつかず、いっそそこに空間があるのかも疑わしい程に真っ白である。
平衡感覚すらおぼつかない中、この終点をひたすらに目指した。
いつになっても四方八方は代わり映えせず、いい加減頭が痛くなってくる。
ふと、さらに遠くに青いものが落ちている事に気がついた。
必死にそれに手を伸ばす。色のあるものがあり、私はひどく安堵した。
近づいてみると、果たしてそれは人型であった。
真っ青な胴から四肢と頭のようなものが出ている。うっすらと丸みを帯びたその身体はとても美しく、この世界で唯一の癒しに思えた。
視線をあげると地平線すら見えぬ白の暴力に目が眩んだ。人型に視線を戻すと、目が休まる。
しかし、何かが足りないと感じた。
指を噛みちぎり、物体の上に血を垂らすと、赤と青が出来た。これか。
なんだか心が休まるような気がして、その前に腰を下ろした。
どのくらい時が経ったか分からない。だが、見れば見るほど何かが足りない。世界は未だに真白く、何も満たされていない。
この人型を崩すのには抵抗があったが、これに答えがあるように思った。
人型の腕の付け根に左手を添え、右手でその腕を思いっきり引っ張った。思ったより簡単に腕は抜け、もんどり打って背中を地面にぶつけた。
背中を擦りながら上半身を起き上がらせると、虹が飛び散っていた。
それを見て、ニンマリと頬が歪むのを感じた。
嗚呼、私はこれを求めていたのだ。
右手に握られた青い腕を、肘を軸に捩じ切る。するとカラフルな色が世界に飛び散った。
それが終わると胴を思いっきり蹴飛ばした。物体は派手に転がりながら世界に色をつけていく。
見える。一気に世界が明るくなった。世界のなんと美しい事か!
いっそう気分を良くした私は、物体を踏み潰した。辺りに虹が吹き出す。どろどろと虹が溜まっていく。
これだ、これだ、と猿のように騒ぎながら何度も物体を踏みつけた。
世界が色で満ちていく。
嗚呼、これなのだ。
だが、それでも何かが足りない。何か、何かが。
それに気づいた時私は酷く後悔した。
足りなくなってしまったのは、果たして白であった。
暫時、呆然とした。
いや、最後に残された白がここにあるではないか。いいぞ、これで理想が完成する。
歯を砕き、巻き散らかすと少しながら白い部分が出来た。
右目をくり抜くと、赤やら黒やらが混じってはいるものの白があった。
ならばもうひとつの白を出し切れば、これは最後になるだろう!ここに私の理想郷は極まるだろう!
そして、私は真っ黒な世界に閉じ込められた。
そして、何者かに捕縛された。
昔、誰だったかの小説を読んで感銘を受けました。タイトルも作者も覚えていませんでしたが、夢の中で女体になっていた主人公が、自身と周りの自然をひとつの「絵」にするために血を撒き散らしながら踊り狂う。そんな話があったと思うのです。
結局、それは男が眠っている間に見た夢だったのですが、そのなんの意図も無い深層心理である「夢」に一般人の皮を被った狂気が隠れているのかと思うと、なんともぞくぞくした物だったという事だけを鮮明に覚えています。
私が小説に憧れたきっかけだったりもします