後篇
後半戦です。後書きに答え合わせが少しありますが想像することが好きな方には、無粋かもしれません。後語り解説が嫌いな方は読み飛ばしてください。
ーーーー魔女
古くから嫌われる不思議な力を使い、人に害をなす存在であり、この場合においては女性のことを指すだろう。
「珍しい、怖がりのお前がそんな科学的じゃない、呪いの類いなんて。そういうの嫌いだったはずだけど」
「良いでしょ、たまには。私だって女子なんだから白馬の王子様然り、少しは夢も見るんだよ。あと怖がりじゃないから」
左様ですか。僕には一生分かり得ないことだろうからとりあえず肯定しておく。
「で、具体的には?」
「知らないよ、そんなの。願い事をしたら叶えてくれる魔女がいる、としか聞いてない」
「何だそれ。そんなもの信用できるのか」
情報すらも大まかである。
「願う分にはタダでしょ。プライスレス、お得だよ。願うだけ願ってみよーよ」
そう言うと彼女はベッドから机の傍の椅子に座り直し、目を閉じて唸る。
「そうだなー、魔女様、魔女様。何かいいことありますように」
全く信用できないのはこちらの願い事もらしい。願いが大雑把すぎるだろ。
「願い事は?」
「特にない。僕は今の生活に充分満足してる。強いて言うなら早く漫画を読みたい」
「それは無理。私まだ読みきってないし。他に何かないの?」
「じゃあ、魔女様、魔女様。何かいいことありますように」
「それじゃあつまらないじゃん」
「願い事なんてないから。何か些細なことでいいことがあったらいいんだよ。それだけで幸せを感じられるおめでたいやつなんだよ、僕は。宝くじで1億当たったとか、ツチノコ見つけた、とかくらいで充分喜べるんだ。」
「充分すぎるよ、充分に大事だよ。誰でも喜ぶよ、しかも後半は絶対叶わないだろうし」
男子には夢を見させてくれないらしい。ツチノコは男子諸君の夢だろう、浪漫だろう。
「けど、思いつきそうにな」
そこまで言って言葉を止めた。
「肉が食べたい。最近作ってくれるものが野菜中心のものが多かったから」
「肉ばかりだと体に悪いから」
最近、料理を懸命に練習しているそうで、夕食とかをよく作ってくれる。
女子力を磨いて可愛くありたいそうだ。
昔から男みたいな扱いばかりを受けていたからその反動が今更にでも来ているんだろう。
そういう普段とのギャップに萌えるものがあるのも確かだ。
夕方5時を回ったころ、彼女はバイトだから、と逃げるように部屋を出ていった。
そして僕がようやく買った漫画を読み終えてしばらくするとインターホンが鳴り、ドアを開けてみると配達員の制服を着たお兄さんが大量の発砲スチロールを抱えて、玄関前に立っていた。
「ここにサインをお願いします」
「あ、はい」
頼んだ覚えのない僕宛ての冷蔵便を苦笑いのお兄さんから受け取り、大量の発砲スチロールを確認すると
『差出人:魔女』
と書かれていた。成程、配達員のお兄さんが苦笑いする訳である。
まさかこんなに早いとは。願いを叶える魔女とやらは恐ろしく勤勉で、しかも現代的らしい。
中身は1つが魚の頭でそれ以外は魚の切り身だった。とてもじゃないが1人で食べ切れる量ではない。
たしかに肉が食べたいとは言ったが。
これは普通に嵌められたらしい。
仕方ない、何か仕返しの手でも考えておくとしよう。
少しだけ補足を
まず、願いを叶える魔女という噂は緋浬ちゃんの作り話です。彼女らしい大雑把な設定だと思います。
主人公が肉を食べたいと言って結果届いたのは魚のお肉でした。
この結果を前提に考えると、お母さんからのメールはおおよそ魚が届いたかどうかの確認だとしても見れるわけでまた、彼女が近頃は野菜中心の料理ばかり作っていたところから計画は始まっていたのかもしれませんね。こればっかりは緋浬ちゃんだけが知り得ることで私もわかりません。
皆様のご想像にお任せいたします。
この物語が皆様の糧とならんことを