第一話
[先日バグダッド城中枢部で起きた爆破テロに関する続報が入ってきました。帝国軍の調べによると…]
帝国から遠く離れた砂漠地帯にポツンと存在する西部劇に出てきそうな酒場。
そこに置いてある、現代ではもはや見る機会がないであろうブラウン管のテレビから同じ様な音声が繰り返し流れている。
「どうした兄ちゃん、浮かない顔して」
カウンターで一人座っているとガハハ笑いが似合いそうな髭面の店主が話しかけて来た。
「いや、世の中物騒だなと思いまして…三日前にもバグダッド城の爆破テロがあったじゃないですか。
一番警備が厳重であろう城中枢部が爆破されて、王まで殺されるだなんて誰も思わなかったかったでしょうし少し怖くなってしまって…」
青年は果実入りのいちごミルクのジョッキを片手に持ち俯き気味に、しかし閑々たる態度で話した。
「まあ確かにな〜、まさか王様が死ぬとは――それも誰かに殺されるだなんて誰も思わんだろう。
王室まで辿り着く事もさながら王を殺せる人物なんてそうは居ないだろうしな。」
更に店主は頭に巻いたタオルを巻き直しながら
「ましてや現場には証拠となるものもなし。中枢部の監視カメラは全て破損、王室には犯人の物と思われる物も一切なかったらしい。手際の良さと言い不気味な事件だなあ」
と続けた。
「――すみません、お会計お願いします。」
ジョッキ半分のいちごミルクを一気に飲み干し、ゴーグルの位置を直すと青年は会計を頼んだ。
「あいよ650円ね。ところでお客さん、どこに向かってるんだい?」
店主が辿たどしくレジを打ちながら聞いた。
「これといった目的地はないんですけど、とりあえずここから西にあるフェナスに行くつもりです。」
青年は会計を済ませるとウェスタン扉を開き外に駐車しているバイクに乗り西に走った。
『――テレビの報道内容、酒場の連中の様子からして帝国軍の連中は犯行の足取りは一切掴めていない様だな』
酒場での外行きの振る舞いとはうって変わり気丈に思考を張り巡らせていた。
『爆破で王室に設置したポータルが壊れたのがでかいな、少なくとも拠点を特定される事は無いだろう…』
一縷の安心を含みながら青年はフェナスに向かうのであった
〈一方、帝国軍では…〉
「なにか手がかりは見つかったか?」
肩に掛かりそうな金髪マッシュヘアーの男が配下にそう投げかける。
「はっ、ユフィ様…残念ですがやはり手がかりは何もありません…。ポータルは壊されていましたし争った痕跡も爆破痕により見受けられませんでした。
カメラに至っては録画データを確認した所犯行三分前から機能していませんでし―」
そう言い終える前にユフィは配下の一人の顔をもぎ取り
「そんな事は聞き飽きてるんです…私が聞きたいのは手がかりの発見報告!!貴様らの無能さを聞きたい訳では無い!」
と声を荒らげて叫んだ。
それに怯えるように配下達は事件現場に戻っていったのであった。
酒場…店名はコボンガ
ユフィ…帝国軍の諜報部隊の長であり、基本的に帝国軍の指揮を執る。
金髪のマッシュヘアーで長身で細身。顔は切れ目のイケメン