狂恋
貴方は好きな人を殺したいですか?好きな人に殺されたいですか?どちらかが究極の愛の形だと思ったらどちらを選びますか?
僕には、小さい頃から一緒に過ごしてきた一つ年上の所謂幼馴染の女の子がいる。
彼女の15歳の誕生日、彼女の両親が殺された。部活で帰りが遅くなった彼女が家に着いて最初に見たのは苺のように真っ赤に染まった親の姿だったらしい。金銭などを取られた形跡が無いことから怨恨の線で捜査が進められてると近所の噂で知った。僕が彼女を守らなければいけない、そして・・。
あの事件から半年経ち季節はすっかり秋になった。彼女も平穏を取り戻し・・とはとても言えないけれど、学校に通えるくらいには心の落ち着きを取り戻した。事件の後すぐに近くに住んでいた親族の家に引き取られたのだが、ベッドに横たわっている彼女は、毎日様子を見に行って話しかけても何も反応することなく、ただただ虚空を死んだ魚のような目で見続けるだけだった。そんな日々を三ヵ月くらい続けただろうか・・、彼女が凄く辛い体験をしたのは理解してるけど、僕もまだ14歳で精神的に幼く、何を話しかけても全く反応がない毎日に嫌気がさしてしまい半ば自棄になっていた僕は彼女にこんなことを言ったんだ。
「ねえ気づいてた?僕は貴女のことが好きなんです。初恋の女の子でずっと恋してる女の子。知り合ってからずっと側にいられて、今でもそれは変わらないはずなのに・・なんだか地球一周分離れたとこにいる気分だよ。流石にこの状況はしんどいな・・。けど、また明日も来るからね」
そう言って僕が立ち去ろうと背中を向けた時、声が聞こえた気がしたんだ。驚いて振り返ると確かに彼女の口が動いてるんだ!急いで彼女の側に戻るけど何を言っているのか聞き取れない。思い切って口元に耳を近づけると声が聞こえた!
「ほんとうに・・あすも・・きてくれる?」
僕は思わず彼女の手を握り締めたよ。長かった、本当に長かった・・。他人はたった三ヶ月というかもしれない、けど、好きな人と過ごせない時間は目に映るすべてが灰色だった。
あの後すぐに、彼女の親族が親身になって世話をして、勿論僕も毎日通って。元々明るくて人懐っこい子だったから誰かと話すことが一番良い回復方法だったのかもしれない。
もう一つ嬉しいことが・・、僕の投げやりな告白、どうやら彼女の耳には聞こえてたらしく(それ以前に色々話してたのも全部聞こえてはいたらしい。ただ感情の発しかたがわからなくなってただけだと本人は言っていた)返事をしてもらえてお互いに好きだということが分かった。これが僕の激動の半年。
そして今、僕の隣には彼女がいる。体も心も回復には向かっているが一人になるのが怖いし、好きな人と離れてしまったら両親のように突然会えなくなってしまうんじゃないかと思うようになってしまったらしい。なので、毎朝一緒に登校するようになったし帰りも彼女の部活が終わるまで待って一緒に帰る。夜まで一緒!というわけにはさすがにいかないので無料通話で喋りながら自宅に帰り彼女が寝るまでずっと喋ってる。まあ、元々早寝早起きな彼女なので22時くらいには寝息が聞こえてきて電話を切るんだけど。
好きな人と毎日一緒に登校して、毎日一緒に下校して・・。休日も二人で色んな所に出かけて・・、これで彼女の傷は癒えるんだろうか?わからないけど、たぶんきっとそうじゃない。そうじゃないんだ。だって、彼女の両親を殺した犯人はまだ捕まっていない。きっとそれまでは彼女に平穏は訪れない。あと三ヵ月くらいで事件から一年になる。その間に少しでも彼女の心の拠り所になれるようにしなければ。
あれからまた月日が経ってあと一週間で一年になろうとした頃、彼女にこんなことを言われたんだ
「貴方がいてくれて本当に良かった。両親がいなくなって私の側にいてくれる人がいなくなっちゃったって思ってたけど、私が動けなくなってしまったときも貴方がい続けてくれたから私はこんなに立ち直れたよ」
嬉しい・・嬉しい・・・!彼女が自分を支えにしてくれたこと、してくれることをずっと望んでた。今なら神に感謝を捧げられるし、なんだったら悪魔にだって感謝しよう。
そしてついにあれから一年が経った・・。今、僕の目の前には彼女がいる。今日は事件から一年だけど、彼女の誕生日でもある記念の日。とても楽しみだ。そうそう、僕らがいるのは事件があった昔彼女が住んでいた家。僕がどうしてもここに来たいと言って連れ出した。
「ねえ・・?なんでここに来たの?私居たくない」
「まあまあ、ここじゃなきゃ駄目なんだ。我慢して」
「ここじゃなきゃ駄目?大事な話があるからって言ってたけどそれがここじゃなきゃ駄目なの?」
「うん、そうだよ」
「一体、何の話が始まるの?」
「う~ん・・・。ねえ、僕の事好き」
「え?なに急に・・。好きだよ。両親が急にいなくなった私の心に絶望以外の感情を与えてくれた人。私が一番辛いときにずっと側にいてくれた人。その優しさが嬉しくて私は貴方に恋をしたの。」
「そっか・・。じゃあ、両親のことは好きだった?」
「当たり前でしょ。私のことを大事に育ててくれたお父さんとお母さんだよ」
「そうだよね・・、じゃあ、まだ捕まってない犯人は許せない?」
「許せないよ、殺してやりたいくらい許せない」
「殺していいよ」
「・・・・・・え?」
「ははっ!凄く間抜けな顔してるけど大丈夫?」
「だって意味が分からない・・。私が殺したいのは両親を殺した犯人」
「うん。それ僕」
「・・・いや、え?は?」
「両親を殺した犯人まだ捕まってないでしょ?」
「・・うん」
「だから、それ僕」
「・・・・・・」
「う~ん・・。僕さ、好きな人に心の底から憎まれたいんだよね。憎い人に対しては毎日感情を積もらせていくじゃん?ああしてやろう、いや、こうのほうがいいかなってずっと憎い相手を貶める計画立てたりして。あれって恋に似てると思うんだよね。しかも恋や愛よりずっと強い。恋や愛じゃ生霊にはなれないしね」
「ちょっと待って・・」
「・・でさ、憎まれるにはどうすればいいかなってずっと考えてて」
「待ってよ・・・」
「良い事を思いついたんだよね!好きな人から憎まれる一番いい方法はその人の大事なものを壊す・・」
「ちょっと待ってってば!」
「?どうしたの?急に大声出して」
「いや・・、頭がついていかないんだけど・・・、こういうこと?貴方は私が好き。貴方は私に憎まれたい。だから私の大事な両親を殺したってそういうこと?」
「うん、そうだよ。わかりやすいでしょ?}
「・・・わかりやすい、そうだね。分かり易すぎて気持ち悪いくらい」
「最初は君を傷つけようと思ったんだけど、体の傷が塞がったら落ち着いちゃうかなと思って君の心を壊したかったんだ」
「私を毎日お見舞いに来てくれたのは?」
「ん~・・。激しく。憎まれるためには恋をしてもらわないと、愛してもらわないといけないから。君は、僕がお見舞いに通う前は恋してなかったでしょ僕に」
「それは、そうだけど。」
「それじゃ駄目だったんだよね。恋してる人が裏切ったっていうシチュエーションが大事だったんだよ」
「貴方・・本当に人間?なんか、何かがずれてるよ。うまく言えないし会話は普通に成り立ってるけど」
「自覚はしてる。でも、僕から見たら周りが何考えてるかわからないんだよね。」
「ああ・・、もういいや。貴方と話してると私まで狂いそう」
そう言って彼女は床に落ちていた紐をゆっくり拾った。そして、そのまま僕の首に巻き付けて思い切り締め付ける!抵抗するけど全く緩む気配がない、本気だ!本気で殺される・・・・。これを待っていた!僕が求めていた一番のシチュエーションは、好きな人に憎まれることじゃなくて好きな人に殺されること。
心臓が鼓動を止める前に必死で彼女の表情を確認する。満面の笑みをしていた。嬉しくて嬉しくて堪らないという顔。これを見ながら死にたかった。好きな人に殺されて、好きな人の最高の笑顔を見ながら好きな人の手で殺される。これが僕の求める最上級の愛の形。彼女の最高の笑顔を見ながら僕はゆっくりと死んでいった・・。
初めまして、そら豆と申します。趣味で好きなゲームの設定を使った(二次創作?)小説は書いたことがありますが、オリジナルで書いてしかも人様に晒したのは初体験です。どこが良い・どこが悪い等の意見ございましたら参考にさせて頂きます。
自分の書いた駄文を読んでくださりありがとうございました!