村へ
無力化された俺は、まず縄を無理やり力で外して周囲を確認した。耳をすませば広範囲の音を拾えるスキルがあるため、索敵が可能である。少なくとも脅威になりそうな存在がいないことを確認できた。次に置いていった荷物を見てみると、簡易的な野営が行えるくらいには装備が揃っていた。この場所もちょうど開けていて、野営しやすい場所ではある。
時間も既に夜を回っていたので、俺はひとまず火を起こした。魔法の才もあったので、集めた小枝に火の魔法を使って小さく燃やす。小枝を徐々に増やしながら少しずつ大きな枝を燃やしていった。篝火ができたところで、次に野営のため天幕を張る。適当な木の間にロープを渡し、布を固定した。一晩程度であればこれだけでなんとかなるだろう。食料を確認すると大量の干し肉と水筒に入った水、蒸留酒、そしてパンとチーズが入っていた。干し肉とパンとチーズを取り出し、切ったパンの間にチーズと干し肉を挟んで火に近づける。チーズが少し溶けたところでいただいた。
食べながら簡単に明日以降を考えてみる。
別段栄誉が欲しい、名声が欲しい、そんな理由で魔王討伐に参加したわけではない。持ちうる力を考えた時に俺の役割であると強く感じたからだ。しかし、
「スッキリ、しねえよなぁ」
それがなんだ、いざ倒してみたらお前も怖いから倒すなどと、横暴が過ぎる。しかし元より転生者であった俺はこの世界に引け目を感じて、なるべく俺以外のパーティのメンバーの名前が残るように動いてきた。だからこそ、このように闇に葬られては何もできない。とりあえず、何かしらの形で復讐する、そう考えながら横になっていると、あれだけ眠ったのにも関わらずすぐ寝てしまった。
朝起きると怪物に変身していた、なんてことはなく魔王討伐後から水浴びしてない体が少し臭い出しているだけであった。野営の道具を片付けて目的地を考える。野営を続けるのもやぶさかではないが、拠点があるに越したことはない。地図を取り出してみると、近くに小さな村があった。ここから歩いていけばおおよそ1時間程で到着する。魔王の根城の近くにある村だがら行くだけ行ってみようと思い、歩き出した。
道中、大型の獣や魔力に当てられた魔獣を倒して捌きながら進んでいくとゆうに1時間以上かかったが、なんとか村へ到着した。立地的には良くないはずだが、やけにしっかりとした村であった。石材と木材を活用したしっかりとした壁にぐるりと囲まれた村。一つだけしかない入り口も大きな門で、何人か門番のような人間も見受けられた。
門へ向かって歩くと、門番も気づいたようで手招きされた。鎧とまではいかないが、しっかりとした胸当てや兜を見るに装備は整えてある。魔王城が高い割には充実した装備だ。
「おう、あんたどっから来たんだい?やけに汚れているが……」
「魔王城の方からやってきました」
「は?え、どういうことです?」
簡単に説明をした。もちろん王家に目をつけられ無力化されたことは除いて自主的に別れたことにし、誰にも知られたくないという建前をつけて。
「なるほどねぇ、魔王様倒しちまったんだなぁ」
「ん?魔王様?もしかして、この村魔王の信仰が強いのか?」
「信仰っつーか、村と城が近いからちょっとした交流はあるんだよな。魔王の持つ資材とこっちの農産物交換したり、魔王も王国軍とは戦うけど一般市民には特に何もしなかったからなぁ」
「それは、知らなかった。そういったやりとりがあったんだな」
確かに魔王の軍隊が村を襲ったり、と言ったことは耳にしたことがなかった。俺たちも勅命受けて動いていただけだった。
「とりあえずあんたの人となりは分かったし、見たところ問題なさそうだから歓迎するぜ!俺はアンジェロ、こっちがダニーとエルボだ」
3人と握手を交わしたのち、村長の家向かうように言われた。道のりを教えて貰い、歓迎のお礼にと道中仕留めた獲物の肉や毛皮などを渡すと、早速村でわけるよと喜ばれた。そして別れる際にこんなことを言われた。
「そうそう、今村長のとこにお客さん来てるけど気にせず入っちゃってくれ、多分大丈夫だから」
なぜ多分とつけるんだ。とりあえず、教わった通り道を歩いた。
少し歩くと見かけは簡素だが他の家よりほんの僅かに大きな邸宅についた。というか他の家も大きいものが多い。どれもこれも一階に三部屋、そして二階建てで上に二部屋が基本で場合によっては3階建もある。どんな技術と資材だ。
村長の家に入ると、お手伝いのような人に案内された。そして部屋に入ると村長と、色素の薄いツインテールに色白な肌、大きな目に控えめな胸、そして極め付けに大きなツノの女性がいた。
「おー1日ぶりか?元気にしてたか、転生者さん」
倒したはずの魔王がいた。
孤児院までもう少しかかります。