第五章 龍よ、さらば -4
目が覚めると、白い天井が見えた。目だけで周囲をぐるりと見渡すと、白を基調とした部屋のベッドに寝ているのがわかった。点滴が目に入り、龍之介はすぐに、自分は病院にいるのだと思った。
――夢かもしれない。
再び目を閉じ考えた。自分は龍のまま死んだと思っていたけれど、今は人間の姿で病院のベッドに寝ている。ということは、運ばれたときは、すでに人間の姿になっていたということだ。いつの間に変化したのだろうか。意識は朦朧としていて、如意宝珠を使ったかどうかも思い出せない。龍之介はそんなことを思いながら、再び眠りに落ちた。
龍之介は幸い、全身打撲だけで骨折や内臓に損傷が見られなかったので、意識が戻るとICUからすぐに一般病棟に移された。四人部屋だったが、龍之介のほかに、患者は誰もいなかった。
「ホントにバカだね。赤信号で渡るなんて。小学生以下だよ」
母の文佳が龍之介の顔を見て苦虫を噛み潰したような顔をする。
「久しぶりに会ったのに、そんな言い方あるかよ」
約一年間、行方不明だった息子と久しぶりの再会をしたのに酷い言いようだ。龍之介は膨れっ面をした。
「何が久しぶりだよ。たったの一日ICUに入ったくらいで大袈裟なことを言うんじゃないよ」
どういうことだ? 文佳は龍之介がひき逃げ犯の容疑者になり、その後、容疑が晴れ、行方不明者になったことをすっかり忘れたわけではあるまい。どう考えても、忘れようのない出来事だ。
龍之介が考えあぐねていると、挨拶をしながら、小さな箱を持った亜子が入ってきた。
「龍之介。どお? 具合は」
「体中が痛いよ」
答えながら、龍之介は気付いた。「リュウちゃん」ではなく、「龍之介」と名前を呼び捨てにされたのだ。記憶を失くす前の亜子と同じ呼び方だった。龍之介は亜子の記憶が戻っているかどうかを確かめたかった。
文佳は亜子を歓迎し龍之介の横に椅子を出すと、座るように促した。しばらく、龍之介を挟んで、亜子と文佳が二人で楽しそうに会話していた。自分の頭上で飛び交う話が、自分とは全く関係ない有名菓子店や美容の話だったことに、龍之介は腹立たしさを覚えながら、ふて寝してしまった。そして、文佳がトイレにでも行ってくれることを願った。
時計が十時半を回ると、文佳はパートの時間だからといって、亜子に挨拶すると、龍之介を見ながら、
「バカ息子のために出勤時間を遅らせてもらったんだよ。その分、稼ぎが減るけどね」
と嫌味を言って出て行った。文佳は地元のパン屋でパートをしていた。龍之介は文佳が出て行ったドアを見ながら、ふん、と鼻息を鳴らした。




