消え行く世界で4
「あ、誰かいるよ」
「どうせまたカカシなんだろ。前にカカシを見て人だー!とか言って喜んでたもんなぁお前」
「忘れて!そのニヤニヤ顔ムカつく……でも今回はほら!動いてるよ!」
「あんな畑の真ん中でこんな昼間に?今9月だぞ?この暑さのなかあんなふうにゆらゆら揺れながら立ってる人なんているのか?」
2人は広い畑が両脇に広がっている道を進んでいた。そして辛うじてシルエットが見えるくらいの距離に人影のようなものを見つけたのだ。……2人はこの旅を初めて1度も人に会っていない。消滅していない人間は、あとどれほど残っているのか……
「行ってみよう?人だよきっと!」
「……まぁ、いいか」
2人は自転車を止め、畑の中を進んでいく。5分ほど経ち、人影が何なのかわかる距離に着くと……
「かかしじゃん」
「かかしだったね……」
「ほらみろ。……もしかしたら人間はもう俺たち以外の人はいないのか?」
「3ヶ月以上自転車で旅してるのに1度も見かけないから、いないのかもね」
「……落ち着いてるな」
「私には君がいるからね」
「嬉しいこと言ってくれるなぁ……もしかして今の告白?」
「違うよ?君も人間だから。例え君以外の人間全てがいても君がいない方が嫌だからね」
「やっぱり告白じゃね?」
「違う!違うから!そういうのは消滅を解決してから……」
「そうだな。そういう事をするのは、消滅が片付いてからだな」
「うん……」
ーーー
「アダムとイブ、て知ってる?」
「有名な話だからな」
「昼の話の続きだけど、もし、世界に私達しか人が残って無かったら、私達ってアダムとイブになれるのかな?」
「楽園から追放されると?」
「そうじゃなくて……その、子孫を……」
だんだん声が小さくなっていく。後半は聞こえないような声だ。
「なに?」
「なんでもない!」
「そうか」
「……本当になんでもない。何言ってるんだろ、私は」
「何言ってたんだ?」
「なんでもない!聞かないで!」
「隠されると気になるんだよなぁ」
「もうこの話はおしまい!夜なんだからもう寝る!」
「そうだな。街灯もつかないし9時にもなると暗いからな」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
「……ここは楽園なのかもな。2人だけの世界なんて、本来なら有り得ないよな。……消滅のせいで知っている人間はゆきだけになって、あいつが知っている人間も俺だけになって、それが幸せな楽園なんて考えるなんてどうかしてるのかもしれないな」
彼女がいなくなった部屋で、彼は1人そう呟いていた。




