消え行く世界で13終
「あれ、出てくるの早いね……どうしたの?表情がいつもより暗いよ?」
彼が家を出ると、家の前でゆきが待っていた。
「……なぁ、お前消滅について何か知らないか?」
「……なんで?知らないよ」
「本当に?」
「……もう1人の私に会ったの?」
「会ってたらしい。日記に書いてあった」
「日記に……なるほど。それで君は理解しちゃったのか」
「……日記に書いてあることは本当なのか?」
「私は日記を見てないからわからないよ」
「消滅は、移動という表現が正しいとか、世界が崩壊するとか」
「それは本当だよ」
「……そうか。お前は何なんだ?夢の中に出てくるなんて、人間技じゃない」
「私はね、移動した先の世界の人間と同じだよ」
「……つまりお前は移動した先の世界の住人ということか?」
「違うよ。私はこの世界の住人。夢の中に出てきたのが移動した先の世界の住人」
「……わけがわからないな」
「私はこの世界で生まれた。私を作ったのが移動した先の世界の私。私は自分と何ひとつ変わらない私を、この世界に作った」
「つまり、移動した先の世界のお前が自分をコピーしてこの世界に置いたのか?」
「そういうこと」
「なるほど。……この世界に俺とお前以外に生き物はもういないっていうのも本当か?」
「うん。あとは君が移動出来ればいいだけだよ」
「そしてお前には俺を移動させることが出来るのか」
「うん」
「俺が移動したらお前はどうなるんだ?」
「どうもならないよ?」
「……この世界のお前も移動するのか?」
「しないよ。同じ世界に同じ人間が2人もいるなんて、不自然でしょ?」
「……この世界のお前が移動しないと俺も移動しないって言ってもか?」
「……移動した先の世界にも私はいるよ」
「お前が作られてどのくらい経ってる?」
「……4ヶ月くらい。なんで?」
「4ヶ月も違う生き方をしてるんだから、もう同じ人間とはいえないだろ」
「……」
「移動した先の世界では双子とか言っておけば不自然なところなんて無いだろ?」
「……君は……」
「なんだ?」
「仮に、私も移動したら……移動しても、私を選んでくれる?別の世界の私じゃなくて、この世界にいる私を」
「当たり前だろ」
「別の世界の私の方が魅力的でも?」
「……当たり前だろ」
「間があったよね?」
「……俺は絶対お前を選ぶ」
「別の世界の私の方が胸大きくても?」
「同じなんだろ?」
「……例えばだよ」
「例え別の世界のお前の方が胸大きくてもお前を選ぶって。絶対に」
「じゃあ……君の記憶が無くなっても?」
「おう。……もしかして無くなるのか?」
「……うん。」
「お前の記憶も?」
「私は多分無くならない。私は別の世界の私と同じ人間だから」
「……よくわからんがわかった。なら、俺に会ったら声かけてくれよ?」
「君が声掛けてくれるまで待つよ」
「……おう。わかった、任せろ。」
「うん。待ってるよ」
「ありがとう。……それじゃあ、移動するか?」
「ノリ軽いね……じゃあ、目を閉じて。うん、そのままにしててね」
「あ、最後に1つ聞きたいんだけどいいか?」
「いいよ」
「もしかして別の世界って影無い?」
「普通にあるよ?なんで?」
「お前影無いぞ」
「……やっぱり気づいてたんだ」
「とっくに。どうしてなんだ?」
「私にもよく分からないよ。別の世界の私に聞いてみて」
「会えるのか?」
「別の世界に行けばたぶん……会えると思うよ?」
「なんか会えなそうな感じだな……よし、もう聞きたい事も無いから移動しよう。よろしく」
「うん。じゃあ今度こそ目を閉じててね……」
彼女は、彼を強く抱きしめた。……彼、しゅうは、この世界から消えた。
「3ヶ月も一緒にいたのに1度もハグとかしなかったなぁ……抱きしめることが移動させる方法にしておいて良かった」
少女は、1人ぼっちの世界で独り言を呟くと、自分を抱きしめるように体に腕を回した。
……そして、その世界から全ての人間が居なくなった。
最終話です。遅くなってしまいました。
この物語は、別の物語と繋がっているので、繋げることを考えて終わらせたら時間がかかりました。
別の物語は、しばらくストックを作ってから出します。当分先になります
ここまで読んで貰えたことに感謝します。ありがとうございます!




