消え行く世界で12
「あ!あれ東京スカイツリー?」
「多分そうだな。よし、あそこにスカイツリーがあるってことは……家はあっちか」
「そうだね」
「よし、進もう」
「あ、この道知ってる!」
「ここからは道が分かるな。……長かったな」
「うん。旅も長かったけど、帰り道も長かったね……」
「まぁ、目的地があっただけ気は楽だったな」
「私はのんびりできた3ヶ月間の方が好きかな」
「1日読書に費やしたりしたもんな」
「楽しかったね……」
「またやろうぜ。秋葉とか行けばもっと色々あるだろうからな」
「……」
「どうした?」
「ううん、何でもない!」
「そうか。……ここから家まで30分くらいか」
「そうだね」
「……あれ、なんで家に向かってるんだ?」
「消滅について調べるんでしょ?」
「いや、だからなんで消滅について調べるのに家に帰るんだ?」
「そりゃあ……なんでかなぁ」
「まぁ、どこ行けばいいのかもわかんないしな」
「おお、懐かしいな……家。ゆきも入るか?……って、いねぇな。どこいったんだ?……まさか!」
彼はバックのポケットを漁る。そこには……
「ある……ゆきの生徒手帳ある。消滅したわけでは無いのか。良かった……」
消滅していないと分かると、彼は家の鍵を開け、入っていった。
「ただいまー……誰もいないから言わなくても良かったか」
寂しそうな表情を浮かべながら、リビングへと向かった。
「……3ヶ月しか離れてなかったのに懐かしいな。……自分の部屋行くか」
リビングを覗き、また少し寂しそうな表情をすると、今度は自室へと向かった。
「あー、懐かしいな。自分の部屋。……あれ、こんな日記書いてた記憶無いぞ」
机の上に、日記が置いてあった。日記に書かれている文字は間違いなく彼のものだった。
「なんだこれ……しゅうや?誰だよ……遊んだ記憶とか無いぞ……りょう、ふみや、たなだ……全員知らないな。消滅か……」
なんとなくぱらぱらとめくっていたが、思わぬ名前に、手が止まった。
「ゆき?……俺、あいつと会った時にも書いていたっけ……なんだよ、これ。夢の中で見た少女?どういう事だよ」
日記は、こう書かれていた。
ーーー日記ーーー
○月○日
夢の中に1人の少女がいた。まわりは白くて……いや、立体感も色も無かった。少女だけに色がついているような風に感じた。
少女は俺に聞いてきた。「この世界の全ての生き物を移動させたはずなのに、なんで君は残ってるの?」だった気がする。……俺はそれにこう答えた。「わからない」。夢の中なのに律儀に答えたよなぁ、俺は。……
「私にも、わからない。なんで君は移動してくれないの?」
「移動って何?」
「君たちは消滅って言ってる。」
「……たぶん、消滅って現象を認めてないからだと思う」
「認めてない?」
「確かに人が消えてるかも知れないけど、俺は消滅なんて信じてないんだ。だって、消えたって考えるより、元々居なかった、て考える方が自然だと思ってるから」
「どうして?」
「俺がいるから」
「……それじゃあ、矛盾してるよ」
「確かに。でも、消滅してない理由なんてわからないからなぁ」
「……君にも、消滅して欲しい」
「なんで?消滅すると何があるんだ?」
「消滅……移動は、生き物を守る為に別の世界に移動させているの」
「別の世界に移動させて守るってことか。この世界にいると何かあるのか?」
「もうすぐ、この世界は崩壊するの。だから、別の世界に移動させて世界の崩壊に巻き込まれないようにする」
「ふーん。……もしかしてこの世界に残ってる生き物って俺だけ?」
「君と、私だけ」
「へぇ……お前は移動しなくていいのか?」
「君が移動出来るまで、私は移動しない」
「どうして?」
「君を守りたいから」
「男女逆であるべきだな……俺はお前を、守りたい」
「どうして?」
「……ノリ。いや、でも守りたい、というかお前に無事でいて欲しいのは事実だ」
「じゃあ、君が移動して」
「どうやって?」
「旅に出る。そして自力で私を見つけて」
「なんで?お前は今目の前にいるだろ」
「この世界の私。この世界の私なら、君を無理やり移動出来ると思うから」
「この世界のお前はどこにいるんだ?」
「わからないの」
「そりゃあ困ったな」
「あと、君はこの夢を忘れるよ」
「……は?唐突に何を言ってるんだ」
「この夢は、たぶん消滅しちゃう。だから、忘れないうちに、旅に出て」
「なるほど。それで探しに行く、ではなく旅に出る、なのか。探す人を忘れたら探せないもんな」
「うん。それじゃあ、この世界の私を探し出して」
「わかった。じゃあ……と、忘れてた。お前名前は?」
「ゆき」
「そうか、じゃあ、また後でな、ゆき!」
「……うん。でも、後で会う私は私じゃない」
「いや、移動した先にお前はいるんだろ?」
「どうして分かったの?」
「お前の言い方」
「そっか」
「そう」
夢はここで終わった。




