消え行く世界で11
「戻ろうよ……ね?今更30分くらいのロスを気にする君なの?」
「ここで戻ったら負けな気がする」
「君はいったい何と戦ってるの?!」
「トンネル。たとえ真っ暗だろうとライトもあるし俺たちなら行けるはず!」
「かっこよくないよ?ここは戻って迂回して行こうよ」
「30分も真っ直ぐ進んで来たその道を戻るんだぞ?」
「そうだよ」
「よし、トンネル通ろう」
「トンネルの中は真っ暗で何も見えないよ?」
「俺が普段夜使ってるランタン型LEDライトがある。さらに電池の換えもある。万が一電池が切れても平気だ。さぁ、行こう」
「……暗いのは怖くないの?」
「最近の夜はいつも暗いだろ」
「月明かりがあるよ!今から行くところは本当に暗いよ?」
「ああ、お前暗いの怖いのか」
「……」
「だから夜いつも俺のところに来るのか。なるほどな」
「……」
「……」
「ねぇ、なんで無言になってトンネルに向かうの?」
「このまま会話続けても不毛だろ。ほら、もうトンネルの中入って来いよ。このライト結構明るいぞ」
「……手、繋いでてくれるなら入る」
「小学生かよ……ほら、手」
「うん!」
「元気だな……」
「10分くらいずっと歩いてるのに、出口が見えないね」
「なぁ、自転車乗ったらだめなのか?」
「だって、手を繋いで行けないよ……」
「片手で自転車押すのも割と疲れるんだよなぁ」
「……」
「……」
「あっ」「きゃっ!」
「ライト消えたな……電池か?ちょっと待ってろ、電池換えるから」
「あっ!手……離さないで!やだ!こわい……!」
「ごめん!……暗所恐怖症?」
「……うん」
「そうだったのか……そこまで怖がるとは思ってなかった。ごめんな」
「うん……」
「手、震えてるな……どうしようか。電池換えるにはまずこの手を離さないと……暗くてバックの中見えないか。この暗さじゃあ」
「……」
「大丈夫か?……ごめん、大丈夫じゃないな。こういうときはどうすれば……」
「……うっ、うっ」
「……泣いてるのか。ええと……ああ、もういい!」
彼は、1センチ先も見えないような暗闇の中、彼女を胸に抱き寄せて、囁くように呟いた。
「大丈夫、大丈夫だ。見えなくても俺はここにいるし、トンネルなんだから出口もあるし、怖がることは何も無い」
「……あ、ありがとう」
「お、泣き止んだか」
「……泣いてない」
「そういうことにしといてやるよ。……もう、離れて平気か?」
「……だめ。もうちょっとだけ、もう少しだけこのままがいい」
「はいはい。手のかかる高校生だなぁお前は」
「……」
抱き寄せる彼と、抱きつく彼女。2人はまるで……
「そろそろ離れるぞ?」
「……離れてどうするの?」
「ええと……あ。俺の自転車のライト、電池式のやつじゃん。よっ」
「あ、明るい。……君が自転車屋でカスタムしてくれてて良かったよ」
「だな。……目元赤いぞ?やっぱり泣いてたのか」
「泣いてなかったことにしてくれるんじゃ無かったの?」
「そういえばそうだった。」
「嘘つき」
「ごめん。でも、もう泣き止んでて良かった」
「君があんなふうに胸に抱き寄せてくれたからね。驚いたし、なにより嬉しかった。ありがとう」
「お、おう……やばい、恥ずかしくて顔赤くなってきた。ライト消していいか?」
「君がまた胸に抱き寄せてくれるならいいよ」
「ぐっ……す、進もうぜ」
「そうだね!」
「もう手は繋がなくて平気なんだな」
「あっ。平気になってる……あ、平気じゃないよ!手、繋いで!」
「……はいはい。ほら、手」
「ありがとう」
「どういたしまして」
暗いトンネルを自転車を押しながら、手を繋いで歩く2人。トンネルには、幸せそうな影が、1人分だけ落ちていた。




