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消え行く世界で  作者: 春夢
12/14

消え行く世界で11

「戻ろうよ……ね?今更30分くらいのロスを気にする君なの?」

「ここで戻ったら負けな気がする」

「君はいったい何と戦ってるの?!」

「トンネル。たとえ真っ暗だろうとライトもあるし俺たちなら行けるはず!」

「かっこよくないよ?ここは戻って迂回して行こうよ」

「30分も真っ直ぐ進んで来たその道を戻るんだぞ?」

「そうだよ」

「よし、トンネル通ろう」

「トンネルの中は真っ暗で何も見えないよ?」

「俺が普段夜使ってるランタン型LEDライトがある。さらに電池のえもある。万が一電池が切れても平気だ。さぁ、行こう」

「……暗いのは怖くないの?」

「最近の夜はいつも暗いだろ」

「月明かりがあるよ!今から行くところは本当に暗いよ?」

「ああ、お前暗いの怖いのか」

「……」

「だから夜いつも俺のところに来るのか。なるほどな」

「……」

「……」

「ねぇ、なんで無言になってトンネルに向かうの?」

「このまま会話続けても不毛だろ。ほら、もうトンネルの中入って来いよ。このライト結構明るいぞ」

「……手、繋いでてくれるなら入る」

「小学生かよ……ほら、手」

「うん!」

「元気だな……」



「10分くらいずっと歩いてるのに、出口が見えないね」

「なぁ、自転車乗ったらだめなのか?」

「だって、手を繋いで行けないよ……」

「片手で自転車押すのも割と疲れるんだよなぁ」

「……」

「……」

「あっ」「きゃっ!」

「ライト消えたな……電池か?ちょっと待ってろ、電池換えるから」

「あっ!手……離さないで!やだ!こわい……!」

「ごめん!……暗所恐怖症?」

「……うん」

「そうだったのか……そこまで怖がるとは思ってなかった。ごめんな」

「うん……」

「手、震えてるな……どうしようか。電池換えるにはまずこの手を離さないと……暗くてバックの中見えないか。この暗さじゃあ」

「……」

「大丈夫か?……ごめん、大丈夫じゃないな。こういうときはどうすれば……」

「……うっ、うっ」

「……泣いてるのか。ええと……ああ、もういい!」

 彼は、1センチ先も見えないような暗闇の中、彼女を胸に抱き寄せて、囁くように呟いた。

「大丈夫、大丈夫だ。見えなくても俺はここにいるし、トンネルなんだから出口もあるし、怖がることは何も無い」

「……あ、ありがとう」

「お、泣き止んだか」

「……泣いてない」

「そういうことにしといてやるよ。……もう、離れて平気か?」

「……だめ。もうちょっとだけ、もう少しだけこのままがいい」

「はいはい。手のかかる高校生だなぁお前は」

「……」

 抱き寄せる彼と、抱きつく彼女。2人はまるで……

「そろそろ離れるぞ?」

「……離れてどうするの?」

「ええと……あ。俺の自転車のライト、電池式のやつじゃん。よっ」

「あ、明るい。……君が自転車屋でカスタムしてくれてて良かったよ」

「だな。……目元赤いぞ?やっぱり泣いてたのか」

「泣いてなかったことにしてくれるんじゃ無かったの?」

「そういえばそうだった。」

「嘘つき」

「ごめん。でも、もう泣き止んでて良かった」

「君があんなふうに胸に抱き寄せてくれたからね。驚いたし、なにより嬉しかった。ありがとう」

「お、おう……やばい、恥ずかしくて顔赤くなってきた。ライト消していいか?」

「君がまた胸に抱き寄せてくれるならいいよ」

「ぐっ……す、進もうぜ」

「そうだね!」

「もう手は繋がなくて平気なんだな」

「あっ。平気になってる……あ、平気じゃないよ!手、繋いで!」

「……はいはい。ほら、手」

「ありがとう」

「どういたしまして」


 暗いトンネルを自転車を押しながら、手を繋いで歩く2人。トンネルには、幸せそうな影が、1人分だけ落ちていた。

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