消え行く世界で10
「大阪から見て東京って北北東だよな?」
「うん。方位磁針使うの?」
「それしか方法思いつかないからな」
「こんな都会で方位磁針を使う日が来るなんてね……」
「それより方位磁針を持っていた俺の準備の良さを褒めて欲しいところだな」
「偉い!さすが君だね!」
「素直に褒められると反応に困るな」
「そうなの?」
「そうだった。もう行こうぜ」
「うん……また3ヶ月かかるのかな……」
「いや、そんなにかからないだろ。俺たち多分相当色々なところを巡り巡ってここにいるぞ?東京から大阪なんて徒歩でも1週間かからないと思うしな」
「そうなの?」
「たぶん4日もあれば来れるな」
「じゃあ自転車なら……」
「方位磁針だから迷いまくって2週間異常かかるだろうな」
「……」
「方位磁針無かったらそもそもたどり着けないからな?」
「わかってるけどさ、文明の利器は偉大だったんだね……」
「……方位磁針も文明の利器だ」
「……」
「……」
「よし、出発だ。北北東を目指して頑張ろーおー」
「おー」
死んだ声で掛け声をあげる2人は、そのまま方位磁針片手に自転車を漕ぎだした。
ーーー
「結局、3ヶ月も旅したのに1度も人に合わなかったね」
「それどころか生き物にあってないよな」
「虫もいないよね……嬉しいけど……」
「なんか不気味だな。……そういえば不思議だよな」
「不思議?」
「消滅の中心地が東京っていうあの説が本当なら、その中心地にいたはずの俺たち2人だけが何故か消滅してないんだよ。他の生物は多分もう全部消滅したみたいだったしな」
「……不思議だねぇ」
「……不思議だよなぁ」
「まぁ、悩んでも仕方ないし、とりあえず信じて東京に行くしかないな」
「うん。……今日みたいに2人でいられるのも、もしかしたら東京に着くまでかも知れないよね」
「なんで?」
「東京に何があるかわからないから。何かあって、消滅しちゃうかもしれない」
「それはフラグか?」
「……そうかも」
「やめてくれ。今みたいに夜2人で話すことも出来なくなるのは寂しい」
「私も寂しいし、悲しいよ」
「だったらフラグ建てんな」
「あはは、ごめんね」
「あはは、許さん」
「なんで?!」
「いや、まぁなんとなく?許したくない気分」
「私は君を理解出来ない……」
「俺も何言ってるのか理解出来てないから安心しろ」
「安心出来ないよ!君の頭大丈夫?」
「おい、最後の一言は明らかに暴言だろ」
「そうかも」
「間違いなくそうだからな?」
「ごめんね、悪気は無いの。本音なだけだからね?」
「なお悪い」
「ごめんってば!もう寝るね、おやすみ」
「逃げんなこら。……おやすみ」
「……もし、東京に行ったら今の幸せが無くなるかもしれないなら、東京に行くのはやめようか?……いや、それじゃあいつまでも心のどこかで消滅に怯えながら生きないといけない。それにこんな形の幸せは、本当に幸せなんて言っていいのかわからないしな。2人しかいない、世界なんて……」
彼の言葉は、既に部屋から消えた彼女に届くことは無く、誰にも聞かれずに消えていった。彼が最後に呟いた言葉は、言葉にならずに掠れて消えていった。




