第三章・始まりの扉
「今のところ、ヴァルドとアーリアとの国交は再開したばかり。これといってつてもないし、内部潜伏をして内から情報発信をして変えていくにはまだ早いですよね……けど、そうこうしている間に、アーリアの状況は悪くなる一方……」
口元に手をあてたシェーナが唸って、アズロは首肯しつつ口を開いた。
「いや……あるよ、君さえ嫌じゃなければ、おっきなつてが──」
「それってまさか」
「そのまさかさ。ルーアンの存在がある。彼女はアーリアから抹消された存在と聞いたけれど、直接聞いてみればいいんだ、アーリア王家の人間に、ね」
いつになく真剣な眼差しを見せるアズロを、エスタシオンは気遣うように見やる。
アズロはシェーナとルーアンの関係を知っている。
こうした策は、できることなら出したくなかった筈だ。
「──しかし、潜伏するにしても、暗殺者が現れた今現在は危険度が高いでしょう。シェーナさんはこの後ラシアン守備に戻らなければならない、となると、ネウマさんを守れるのは私たちだけです。まずは比較的安全なセレスに向かい、どこかに拠点を確保してから策を立てたほうが良いかと」
現在の戦力を慮り、珍しく安全策を申し出るエスタシオンに、アズロも頷いた。
「……そうですね、僕の案は少し早急でした。どうにも焦りがちで……エスタシオンさん、ありがとうございます。見失うところだった」
「いえ、何も。では、まずは引き続きセレスに向かうということで宜しいでしょうか?」
異を唱える者もない、満場一致での採択だった。
「……ルーアン……」
シェーナは何かを思い出すように、そっと空を見上げていた。
(いつかは、決めなければならないわね、私も……どう、向き合うかを)




