第二章 優しい追い風
「――ところで、あなたたち皆、ヒースを経由するんでしょ?」
口元に手を当てて視線を左に落としたシェーナに、アズロは小首を傾げる。
「そうだけど……まさか」
「ええ。ここ数日間でヒース以北は検問が厳しくなってるわ」
「……参ったね」
ルートを練り直そうと模索を始めたアズロに、隙を狙うかのようなシェーナの蹴りが迫った。
風を切る音とともに繰り出されたそれを制止してから、アズロはゆっくりとシェーナの瞳を見据える。
シェーナは、視線に無言で頷き、笑みを浮かべた。
「そう。気付いたかしら? 参ってないでしょ? セレスに入る時、私はあなたの手を借りてる。なら、その逆も有り得るわよね」
「シェーナさん……」
「国境のフォーレスまで同行するわ。ラシアンに用事もあるし、そうね……フィンさんはいいとして…ネウマちゃんとアズロにはちょっと変装でもしてもらいましょ。任務先で世話になった恩人をもてなすってことで」
シェーナの朗らかな笑みに、アズロは眩しそうに瞳を細める。
「…有り難いよ。なんだか、最初に会った頃を思い出す」
「――ええと、つまりお二人が仰っているのは…? あらあら?」
二人のやり取りを眺めながら、情報を整理できずにいるネウマの頭に、フィンは優しく手を置いた。
「要約すると、私の転移術を使わずとも、シェーナ君のつてで無事国境越えができそうだ、ってことだ。詳細は……着くまでは知らなくていい」
「だいたい解りましたわ。フィンさん、手があたたかいのですね」
「解ったなら良い。温度はどうでも良い」
ふいと顔を背けたフィンに、ネウマはただ、柔らかく笑む。
「ちょっと不思議な感じでした」




