第二章 優しい追い風
「……」
よくこれで眠れるな、という揺れに揺られながら、客が次第に減って北へ北へと走る荷台でぼんやりとする。
フィンは自分を挟むように寄りかかって眠るネウマとアズロをそのままに、ひたすら重みに耐えていた。
ふと、周囲の気配が変わる。
多数の物々しい気配が、荷台を囲むように迫って--
フィンは、身動きせぬまま、自らの瞳に意識を向けた。
一瞬にして銀色の光を放ったその瞳は、映した景色を--馬車狙いの賊を、一網打尽にする。
(眠れ--)
眼光に睨まれた人影は、深い茂みに一人、また一人と倒れてゆく。
「アズロ…」
小声で呟くと、寄りかかって眠っていたかに見えた青年はもう起きていて。
「もう、終わってるね。フィンは仕事が早い」
「…解っていて寝たふりか」
「狸寝入りの極意っていうんだよー」
「その説明はいらん、耳にタコだ」
「そう? 何にせよ、一瞬で皆寝たし、相変わらず凄いなぁ。これで消耗しないなんて考えられないよ」
「先攻ならな。守りは下手だ」
苦笑いしたフィンを、アズロはまじまじと見つめた。
「アラマンダと同じなんだね、フィンは。僕は守りのが得意だから」
「それは良い。いざというとき役立つのは、守る力だ」
朗らかに笑ったフィンに、アズロは不思議そうな表情を浮かべる。
その表情は、次第に笑みに変わっていった。
「懐かしい言葉を聞いた気がする。ありがとうね、フィン」
フィンの頭をぐしゃぐしゃに撫でたアズロの脇腹に、フィンの手刀が軽く撃ち込まれる。
遠慮がちな手刀に、アズロは笑みを深くした。




