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第二章 優しい追い風

脇道から抜け出て、街道を歩くこと半時ほど。

乗り合い馬車の集まる待合所に着いた三人は、遠距離を行きそうな馬車を選んで乗り込んだ。


「ねえ、ちょっといいかな? ミルラの街辺りまで行く? 僕ら休暇をもらって、ラシアン近くの実家に向かってるんだけど…」


アズロが御者に話したのは、流暢なヴァルド語で、ネウマとフィンは顔を見合せて小さく頷く。

任せておこう、という合図だった。


「ラシアンだぁ? あんたらずいぶん遠距離を行くんだな。ミルラはラシアンよりゃ近ぇから行けねぇこともねぇが…」


御者が目配せすると、アズロは懐を探りながら、あえて低い金額を提示する。


「見ての通り、兄弟たちを食べさせなきゃいけないからね。あまり持ち合わせはないよ。そうだなぁ、出せて200ランスってとこ」


「200か…この馬車は普段は長距離客が居てもミルラより南のヒースまでしか行かんよ。それにだな兄さん、そこまで行くには200は少なすぎるだろ。せめて450はねぇとなぁ」


「んー、困ったなぁ。ラシアンの家族には久しぶりに会うんだ。この機会を逃したらまた一年後になっちゃうよ。仕方ない…」


アズロは御者席近くに置いてあった懐中時計やアンティークをちらと見やりながら、御者に耳打ちした。


「あのさ…僕らヴァルド内を巡って演奏やらしてるんだけど、この間いた街で聞いたんだ。ヒースの西のユナの街で、今の時期市が開かれてて、安いらしいよ。そこでダレン作品の『時計塔の夢』がたくさん出回ってるみたい。贋作か本物か見る目さえあれば…いいもの仕入れられるかも?」


御者は瞳を見開き、手元の幾つかの−−これから市に出す予定だった仕入れ品とアズロとを見比べる。

アズロの瞳に浮かぶ不敵な光は刻一刻と増してゆき、御者は唾を飲み込んだ。


「…わかった。ヒースまでなら行ってやろう。ユナの市は不定期だからな、お前さんの話は本物だろう。だが200じゃ無理だ」


「なら250」


「300は?」


「無理無理。270で、あとは情報料ね」


「仕方ねぇな、乗ってやる」


微笑んだアズロに、御者はやれやれと首を振る。

フィンは懐かしげに、ネウマは物珍しげに、アズロと御者のやり取りを見つめていた。



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