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第二章 優しい追い風

「まずはヴァルドを北西に進み、セレスに抜けようと思う。ヴァルドもセレスも情勢は似たり寄ったりだけど、なんだかんだセレスのほうが口利きがあるから」


「そうだね、ヴァルドはアクアと密接だし…ネウマを連れて街を見るならセレスか…」


小声で話す二人をきらきらした眼差しで眺めながら、ネウマがうっとりした様子で呟く。


「街を…歩けるのですね?」


「――うん、僕一人ならネウマを中庸組織づてに託すしかできなかったかもしれないけど、アズロ兄さんがいれば、まあ街を歩いてもいいかなってな。だけどネウマ、セレスに出てからだからな?ヴァルドを進む間は焦るなよ?」


「ありがとうございます! ええ、わかっていますわ。ヴァルドにいる間は馬車移動なのですよね」


「そう。フィンの転移術は僕らの身体に負荷がかかるからね、あまり使えないんだ。路銀は……僕が都度稼いでいこう」


アズロは鞄の中から、緩衝用の布にくるまれた何かを取り出した。

白に近い色で彩色されたしなやかな持ち手――弓を描くような白に包まれ煌めいていたのは、細い幾つもの弦だった。


「竪琴か、珍しいな。しかし…」


「何に使うかって? もちろん弾くよー、歌いながら」


にっこりと笑ったアズロに、フィンは唖然とする。

アズロといえば、会合の時差し出された黒焦げの料理の破壊的なイメージが強すぎて、竪琴のイメージは全く無かった。


「――兄さん、歌えたの?」


「歌は好きだよー、高台にのぼったりして風が気持ちいいと、つい歌っちゃうよね。こんな感じに――」


言葉から歌へ。

アズロは、小さく歌を口ずさむ。


遥かな時を紡ぐようなその歌唱は、彼の故郷、ラナンキュラスの風景を彷彿とさせるものだった。

草原から淡い色の花畑、そして山々が見守る全ての大地が見える――気がする。


「まあ…素敵ですわ」


瞳を閉じて聴いていたネウマが歌うように声を重ねると、アズロも歌から会話へと自然に声を戻し、応答した。


「ありがとう、いつかアラマンダ…僕の亡くなった妹に、歌ってみたら?って言われててね。最近、ふらっと色んな場所で歌ってるんだ」


「総司令官が吟遊詩人…か?」


苦笑いしながらも、フィンは口にする。

聴き入った、と。


アズロは空を見上げて、ただ微笑んでいた。



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