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みどりの獣人




 屋敷に着くと、あちこちから使用人が集まってきて一様に悲鳴をあげた。バルバラの乗った馬車のあとから、別の荷馬車が檻を引っ張ってついてくるのだから当たり前だ。しかもその檻にはみどりの爬虫類が入っている。屋敷の玄関ポーチは瞬く間に騒然とした。


「バルバラ……! おまえはなんということを!」


 急遽呼び出されたバルバラの父が、顔色をなくして立ち尽くす。しかしバルバラがみどりの獣人のために湯を沸かし、食事の用意をさせているのを見て声を抑えた。


「おまえ、獣人が欲しかったのか……? 仲良くしてくれていたあの子を閉じ込めるような真似をしたのも、本当は動物を飼いたくてやったことなのか」

「いいえ、ちがうわお父様」


 親友を飼い猫扱いしたくて引き留めたわけではない。それこそ、獣人のように労働を強いたわけでもない。


「獣人がお嫌いでないなら、一度一緒に過ごしてみるのも悪くないでしょ。和平とは共に生きてみてようやく始まるものではなくて?」


 すでに契約を終え、屋敷の前まで連れてこられた獣人を、父が受け入れないはずがないとバルバラはわかっていた。獣人との和平をうたうのだから、当然のことだ。


 こうして十三歳になったばかりの春、バルバラは新しい親友を手に入れたのだった。






 バルバラは熱心に、友の面倒をみた。硬くてざらざらとした皮膚を濡れた布で拭い、ときには泡立てて洗い、薬も徐々に減らしていった。商会の獣人売りに、どんな服や食事を用意させるのがいいのかを訊ねてはいそいそと市場に足を運び、買ってきた大判の厚布を獣人の身体に巻いてやった。みどりの獣人は焼いた肉がお好みのようだった。


「そんなものを使わないで!」


 あるとき、獣人の身体を洗おうとしたメイドを怒鳴り付けたことがある。なぜなら彼女がデッキブラシで獣人の皮膚を擦ろうとしていたからだ。

 他にも、花猫にやるように食事の皿を床に直置きしたり、首輪をつけて鎖で引いているのを目撃したりすると、バルバラは烈火のごとく怒った。

 このことで、執事や両親が「本当は優しい子なのだ」と思い直したと言うが、バルバラは決して獣人を哀れんだわけではなかった。


「わたしの友人に、人でないような扱いをするのは許さないわ!」


 バルバラが買ってきたのは、ちゃんと言葉を交わすことのできる生き物なのだ。花猫や家畜を買ってきたわけではない。それなのに下等生物のように扱われては、まるで「みどりの」がただの獣で、バルバラの友にはなりえないものだと言われているみたいじゃないか。

 バルバラとずっと一緒にいてくれる存在が、友人じゃないものであるなんて言わせない。そんなことは、絶対に許さない。



 やがて春が過ぎ、夏が過ぎ、秋が過ぎると、獣人がタイル張りの床を好きに歩いているのを目撃した。これまではバルバラが何かを言わない限り腰をあげることはなく、じっと目をつぶっていることが多かったので驚いた。

 窓の外に降る雪の精を、獣人は母の面影でも探すように目で追っている。


「ねえ……」


 バルバラは冷たいタイルの床に座り込んで、獣人の背中に問いかけた。自分の部屋には絨毯も暖炉もベッドもあったが、もう何日も獣人用にしつらえさせた小部屋に入り浸っている。


 獣人は振り向かない。バルバラの声など聞こえないみたいに、窓ガラスに張りついている。こういう反応は、買い主に対する反抗だと思われても仕方がないのに、獣人は無反応を貫いた。薬が抜けてきた証拠だ。もともと薬が効きにくい種族なのだろう、商会の人々は苦労しただろうがバルバラにとってはありがたいことこの上なかった。


「ねえ、あなたの名前を教えてよ」


 バルバラは、獣人飼いの人々のように、みどりの獣人に名前をつけることはしていなかった。半年のあいだずっと無名だったこの生き物を、屋敷の人は「みどりの」と呼んで世話をしている。爬虫類が苦手な者は近付こうともしなかったが、そうでない者はそっと覗きにくるくらい近頃では馴染みの存在となってきた。

 けれどもバルバラは、獣人を部屋の外には出していない。労働もさせないし、命令もしないし、ただそばにいてバルバラの話を延々と聞かせるだけ。聞いているのかいないのかわからなくて、ある日相槌を打つようにお願いすると、獣人はときおり首をかしげて返事をするようになった。言葉を失っても、「みどりの」はちゃんと人の話を理解しているし、思考も朧気ながらしているのだろう。


 早く言葉が話せるようになったらいい。毎日毎日、バルバラは思っていた。薬なんか早く抜けて、一緒におしゃべりしたり川原へ遊びに出掛けたりしたい。

 丸薬は、獣人を迎えたその日のうちに庭に埋めた。


「ねえったら……お願いだからこっちを見てちょうだい」


 それが今日になって、獣人は自分が生きていることに今気が付きましたというように外の景色を眺め始めた。やがて手があること、足があることにも気が付いて、窓ガラスに映る自分の姿を見つめている。

 そうして一言うめいて、喋れることにも気が付く。


「寒い」


 これが、みどりの獣人が話した最初の言葉だった。





 みどりの獣人は日に日に人らしさを取り戻していった。獣人と名が付くのに、ずっとずっと獣としてのみ生きていた「みどりの」は、爬虫類が苦手だった使用人さえ覗きに来させるほど知性的で思慮深い「大人の男性」のようになっていく。

 そう、「みどりの」は雄で、立派な成体だった。もちろん雌だと思っていたわけではない。戦に出ていたのだから幼体とも思っていない。それでも本人の口から語られる「みどりの」の情報にはいちいちびっくりした。性別も年齢も、彼の生まれ故郷も、バルバラは一度だって考えたことがなかったのだ。


「記憶喪失だったような気が、します」


 彼は薬漬けだった期間のことをこう語る。うめき声と同じ、とてもとても低い声で。


「あとから思い出したような感じです。こんなことがあった、あんなことがあったと、思い出そうとすればするほど記憶が戻ってくる。しかし、そのとき自分が何を考え、何を思っていたのかはわからない。きっと何も考えてはいなかったのでしょう。ただ……煮えたぎるような怒りの感情だけは、終始続いています。人間に捕まってからずっと、絶え間なく」


 それは今も変わらないことなのだろうか。結局訊けずに、彼の過ごしやすいように部屋を整えてその日は眠りについた。




 みどりの獣人に出会ってから、きっかり二年が過ぎた頃。すっかり理性を取り戻した彼を連れて原っぱに出掛けた。近くに放置されたいちご畑があり、そこに行くつもりだった。


「獣人って寒いのが得意なんだと思ってたわ」


 布を幾重にも巻き付けたみどりの獣人が、馬車の向かいの席に座っている。彼の表情はすこぶる読みにくいが、最近、困ったときにまばたきが増えることに気が付いた。今もまた、ぱちち、ぱちちと睫毛のない目蓋が忙しなく上下している。


「竜系の獣人は体温調節が苦手なので」


 彼は簡潔に答え、視線を落とした。


「もふもふじゃないから?」

「おそらく」

「ふうん。じゃあ、あんまり強くはないの? あなたを捕まえるのに苦労したって商会の人は言ってたけれど」

「さあ。自分にはわかりません」


 長くしゃべったのは、彼が薬を飲んでいたあいだの話をしたあのときだけだった。


 馬車が原っぱの終わりに停められると、バルバラはさっそく飛び出して、若い草を踏んで歩いた。芽吹いたばかりの植物たちは目の覚めるような新緑だ。さわると柔らかく、産毛が生えていた。


 あとからのそりとやってきた「みどりの」に、バルバラはちぎった草の芽を投げつけた。思わずといったふうに爪をかまえた彼だが、投げられたものがただの草だと気が付いて腕を下ろす。


「ぱらぱらーってならなかったわね。やっぱりお花じゃないとだめなんだわ、お花を探しましょ」

「あまり、こういうことはなさらないほうが」

「怒ったの?」


 みどりの獣人は長く鋭い爪の生えた手を握ったり開いたりしてから、首を横に振った。


「いえ」


 実にそっけない。バルバラはぷんっと頬を膨らませたが、すぐに笑いに変えた。ときには合わないこともある、それが友人というものだ。


「今度はちゃんとお花でぱらぱらーってしてあげるわ。だから怒らないでね。ごめんね」


 無言で突っ立っている獣人を引っ張って、バルバラは原っぱを駆け抜けた。従者が追い付けないでいるのは、当然のことながら無視である。


 たどりついたいちご畑は想像よりも生い茂っていて、白い小さな花に満ちていた。その下には赤く熟れた果実が実っている。みつばちの飛び回る音が、ぽかぽかした日向に響き渡る。


「いちごの葉っぱってちょっとかわいいと思うわ」

「そうですか。ただの葉ですが」

「もー、情緒がないわねあなたって」


 背丈のない植物であるいちごの葉はわりと厚く、アヒルの足跡のような形をしている。色は濃緑、ちくちくとした毛が生えていてさわると少し痛かった。

 バルバラはそれを避けて、親指の爪くらいの小さないちごを摘み取った。


「いちごってね、意外と簡単にぷちっと採れるの。実を優しく持って、縦にひねるといいわよ。採れたらね、ヘタをむしるでしょ。そのむしったところから口に放り込むと、おいしく食べられるからやってみて」


 そこで、差し出そうと思っていたいちごを手元に戻す。「みどりの」の指も爪も、小さくて繊細なものを扱うようにはできていないんじゃないかと思ったからだ。

 

 真っ赤ないちごから新緑の帽子を剥ぎ取って、まだ赤く染まっていない白いおしりのほうを彼の口へ押し付けた。


「はい、あーん」


 数秒ためらってから、みどりの獣人は少しだけ口を開けた。細かな歯が並ぶその隙間にいちごを放り込んで、これだけ大きな口ならいちごを食べる方向も何も関係ないわねと呆れる。


「あなたの口なら一度に何粒も食べられそう。やってみる? 絶対おいしいと思うわ」

「いや。遠慮します」


 にべもなく断られたが、その後バルバラが差し出すものはちゃんと全部食べてくれた。


「これまで小さな実はあまり食べてきませんでしたが、このいちごというのは案外うまいものですね」


 ぽそりと告げられたその感想によって、バルバラは心の底からわきあがる痺れのような感情をもて余した。頬がゆるんで元に戻らない。


「気に入ったならたくさん持って帰って、ジャムを作りましょ! それともいちごパイのほうがいいかしら? あなたって、甘いものは好き?」

「俺は、なんでも食べるので……」


 そういえば竜系は雑食なのだと本人が言っていた。


「でも好き嫌いはあるでしょ? ちゃんと言ってくれないと、嫌いなものを出しちゃうかもしれないわ。それって友達としてどうなの? わたし、友達に嫌なことをするのはいやよ」

「俺は友達なんですか」

「そうよ。いつも一緒にいるし、おしゃべりもできるし、おやつも食べられるんだから、素敵なお友達よ」


 それともあなたはわたしのこと友達とは思ってないの、と訊ねたが、獣人はだんまりだった。


『ビビには内緒よ』

『ふたりだけの秘密ね』


 十二の年、花園で耳にした元親友の声が脳裏をよぎる。


「わ、わたしとあなたは友達よ」


 強引にそう締めくくって、バルバラは再びいちご畑にしゃがみこんだ。獣人は、何も言わなかった。


 それから少しして、花やかな声が畑の端のほうから聞こえてきた。振り向けば、色とりどりのドレスを着た女の子たちが連れ立ってやってくるところだった。


「まあ、バルバラじゃないの」


 彼女たちの中に、見知った顔がある。慈善事業に関わる華族のパーティーで出会った少女だ。

 彼女はバルバラを見るなり駆け出したが、バルバラのとなりにいるみどりの獣人に気が付いて足を止めた。


「リザードマンを連れてるって噂は本当だったみたいね。捕まえるのが難しくて、とても珍しい獣人だってみんな言ってるわ。御しがたい、とも」


 彼女は興味津々な様子でみどりの獣人を見つめている。連れの少女たちは怖れているのか近付いてこないが、仲間内でこそこそと話し合っていた。


「そうね、商会の人は苦労したみたいだけれど。わたしはなんにもしてないわ。ただ一緒にいるだけよ」

「ええ? それだけ強靭な種族を持ってたら、いろいろ使えるでしょうに。そばに置くんだったら、もっとふわふわした獣人を選ぶべきじゃない?」


 華族らしくない、と言いたげに眉を寄せるので、バルバラはない胸を張って言い返す。


「べつに。友達の外見についてとやかく言う気はないわ。どんな噂を聞いたのかは存じ上げないけれど、あまり失礼なことをおっしゃらないで」

「ごめんなさいね、あなたの大事なペットをけなすつもりで言ったのではないのだけど。恐ろしい見目の獣人をたいそうかわいがってるって華族のあいだじゃ有名なのよ、知っていて?」

「だから彼はわたしの友達だと言ってるじゃないの! 次にペットだなんて言ったら許さないわ!」


 すると彼女は心底驚いたように目をぱちくりさせた。


「あら……本当に大事にしてるのね。悪かったわ、私実はちょっと疑っていたのよ」


 素直に謝って、彼女はそろそろと歩み寄ってくる。バルバラは警戒して「みどりの」の前に立ったが、少女は苦笑しただけで文句のひとつも言わなかった。


「本当に申し訳ない言い方をしたわ。だって、信じられない噂が出回っているんですもの。私たちって社交界にも出ていない子どもなのよ、それが大人も怯えるような獣人を猫かわいがりしてるって言うんだから嘘だと思うじゃない」

「嘘じゃない。それに、猫かわいがりしてるつもりはないわ、だって花猫じゃないもの」

「それは見ればわかるわ。でもかわいがってるのは事実じゃない? 友達として、っていうのは予想外だったけど」


 華族の噂好きには困ったものだ。バルバラが将来、調教師になるつもりだとか獣人を多頭飼いするのが夢だとか、そういうことも言われているらしい。

 その噂の中に、獣人を友達にしている、というのがあって、少女はそれを確かめたかったという。迷惑な話だ。


 ふと気になってみどりの獣人を伺い見ると、彼は石像のように動かずに少女を注視していた。何か気になることがあるのだろうか。なんとなく面白くなくて、バルバラは彼のまとう布を掴んだ。


「とにかく、冷やかしが目的ならわたしたちはもう行くわ」

「あら、待ってよ。私も獣人に興味があるのよ」


 バルバラは歩き出そうとした足を、地面におろした。


「そうなの?」

「薬を抜いたら言葉を話すようになるって本当なの? 狂暴になったりしないの?」

「薬を調節すれば大丈夫って商会の人は言ってたけれど、わたしのところではほとんど薬を使わなくなったわ。もうすぐ、一粒だって飲まなくなる予定よ」


 でもご覧の通りおとなしいでしょ、と言うと、彼女は飴色の瞳をきらきらさせた。遠巻きに見守っていた子たちに手を振って、呼び寄せている。

 おそるおそるやってきた女の子たちに、彼女は興奮した面持ちで語った。


「こちらはバルバラ嬢よ。彼女の獣人は薬を使わなくとも、暴れたりしないんですってよ」

「まあ、本当?」

「奇特な方もいるものだと思っていましたけれど、それが本当ならすごいですわ」

「こちらのみどりの獣人が例の? 私ともお話できるのかしら」

 

 口々に言い合っては、蝶々が花にむらがるようにはしゃいでいる。どうやら武骨な見目をしたリザードマンは、バルバラの知らぬ間に少女たちのあいだで注目の的になっていたらしい。

 強そう、かっこいい、とまるで冒険を夢見る少年のように言うものだから、バルバラは自分のことみたいにうれしくなった。


「もちろん、話せるわ。でも彼はあまりおしゃべりなほうではないから、次々話しかけて困らせないであげてくださいな」


 バルバラが注意すると、彼女たちはおおむねうなずいて「みどりの」を取り囲んだ。


「お名前を聞かせてくださいな」

「生まれ故郷の話も聞きたいわ」

「戦に出ていたって本当なの?」

「獣人ってどれくらいいるの?」


 彼女たちの疑問は尽きず、バルバラが助け船を出そうと思っても弾かれてしまう。

 バルバラは車座になった女の子たちを、少し離れた場所から見ていることしかできなくなった。車座の中央にはバルバラの「みどりの」がいて、ふたりはいつになく遠い場所にいるような気がした。


 みどりの獣人はたどたどしく、ひとつひとつの質問に丁寧に答えていった。答えるたびに少女たちは彼をもてはやし、こんなに優しい獣人と戦うなんて大人ってバカよねと言い始める。


「ですが、俺はあなた方にとって敵では」

「あらまあ、そんなことないわ」

「だって私たちはあなたの友人になったのですもの。戦なんてやりたい人たちにやらせておけばいいのよ」

「そうよ、みんなが参加する必要ないわ。屋敷に来てくださる歴史の先生もおっしゃってたのよ、国が悪いんじゃない人が悪いんだって。私が今、獣人さんを突き飛ばしたとしてもそれは私が悪いのであって、人間みんなが悪い生き物ってわけじゃないのよ」


 だから今、戦場にいない自分たちが戦う必要はないのだ、と少女たちは自信満々に言う。それを受けて、みどりの獣人はうつむき「あなた方は純真だ」とつぶやいた。


「戦場をみーんないちご畑にすればいいと私は思うわ」

「私もよ。そうしたら、ジャムを作ろうかパイを作ろうか、シフォンケーキを作ろうか考えるのに精一杯で、戦ってる暇なんてなくなるもの」

「じゃあ今度の休暇、いちごの苗を植えましょうよ。きっとみんな旅行に行くでしょ? その先々でいちごを植えるのよ」

「まあ、それは素敵だわ」

「うまくできたら、獣人さんにあげるの。身体の大きな獣人さんは小さい実なんてお腹の足しにもならないかもしれないけれど」


 いいえ、とやわらかい声で「みどりの」は話す。


「あなた方のやわらかな心を、きっと仲間も理解する」


 遠い世界の話のように、バルバラはそれらを聞いていた。みどりの獣人が華族の娘たちに気に入られ、認められているのは良いことだ。

 けれども胸をよぎる、苦い気持ち。


『ビビには内緒よ』

『ふたりだけの秘密ね』


 あの密やかな声が、耳にこびりついて離れない。


 生い茂るいちご畑を、一陣の風が駆け抜ける。

 熟れた甘い香りと草花の青いにおいが、やわらかい日差しと共にバルバラの上に降り積もる。


 賑やかでかわいらしい女の子たちの声と、穏やかで低い低い「みどりの」の声が交わるのを、バルバラはしばらくひとりぼっちで聞いていた。

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