腰=束縛
甲冑を脱いだ彼女は恐ろしく華奢だ。
戦士らしく筋肉はついているが、この細腕で大の男が持てぬような大剣を振り回しているとは到底思えない。
女性的なまろやかさを残しながらも禁欲的に鍛えあげられた肉体はどこか扇情的で。とくに腹から腰にかけての優美な曲線はいつでも彼の目を楽しませてくれる。……そこから血さえ流れ出していなければ。
「ああ、下穿きは脱がなくて結構ですよ」
「む。そうか」
躊躇いなく肌を見せてくれるのは嬉しいが、あまりにも作業的に脱がれるのはそれはそれで面白くないという複雑な男心を彼女は理解してはくれないだろう。まあ、彼女にそういった情緒を求めるのは無駄だとわかってはいる。
そして、この場合は彼女の方が正しい。
彼女はここに彼と愛し合いにきたのではなく、ただ治療のために足を運んだのだから。
「いつもすまんな、術士殿」
「構いませんよ。これが私の仕事ですから。……しかし、今回はずいぶんと深手を負いましたね」
彼女の腰――左脇腹から腸骨付近にかけて大きな刀傷があった。よほど深く切られたのか、傷口からは腸がはみ出ている。ちらりと顔を見やれば微かに血色は悪いが、とくに痛みを感じている様子は窺えない。
「本当は痛覚ないんじゃないですか?」
「一応、痛いとは感じている」
「痛いとかいうレベルじゃないと思うんですがね……」
我慢強いのか、あるいはどこか壊れているのか。
しかし、“返り血の戦女神”だの“女狂戦士”だのと言われている彼女にはそんな姿がどこか似合っている。実際、何度となく彼女を治療してきた彼ですら彼女が痛みに呻く姿など想像もつかない。
「治るか?」
「ひどい傷ではありますが、これを治せないようなら治癒術士は廃業しなければいけませんね」
仮にも王お抱えの――それも最高位の“白聖”を冠する治癒術士である。
身体の三分の一でも残っていれば、元通りに再生してみせる。ましてや、その相手が彼女であるというなら、たとえ死体であっても生き返らせられる気がする。……完全に邪法だが。
「では、楽にしていてくださいね」
「ああ」
目を閉じて寝台へと身体をあずける彼女の傷口に手を翳し、優しく血を拭うように動かした。たったそれだけで、生命を脅かすほどの傷があっさりと消え失せる。
傷のなくなった美しい肌。
腰に一滴だけ残った血を別の痕へと変えるために、彼はゆっくりとそこへ唇を寄せる。その静かな口づけに彼女は気づかなかった。
敵の僅かな殺気には寝ていたとしても気づくはずなのに、彼の不埒な想いは塵ほども感じてもらえないとは。
「…………」
紅く色づいた口づけの痕になんだか虚しい気持ちになる。
「……終わりましたよ」
「そうか、ありがとう」
「聞いてはもらえないと思いますが、一応言っておきます。数日は激しい運動、というか戦闘は避けてください」
「うむ。無理だ。明日には国境で起きた反乱の鎮圧に向かわねばならんのでな」
「でしょうね。言ってみただけです」
いつだって、彼女が求めるのは戦いで。
戦場こそが彼女の生きる場所だった。
「怪我してもいいですけど、必ず……私のもとに帰って来てください。小さな怪我だからと他の治癒術士など頼らぬように」
「私を治療してくれるのは術士殿くらいだぞ? 他の者は怖がって近づいてもこない」
「節穴ばかりで助かりますね」
「ん?」
「独り言ですよ」
あなたに触れるのは私だけでいい。
タイトル「あなたに触れるのは私だけでいい」
作者:吉遊




