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誰が為の魔導技術  作者: 白牟田 茅乃(旧tarkay)
魔術師の卵たち
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ハジⅣ

 ミレーユの施術を受けたハジは魔導学校の敷地内を歩く。

 改めて巻き直された包帯は、今では血の付いていない制服の下に隠れていた。

 制服は、魔導学校を卒業してしまえば着る機会はないため、学生寮に遺していく者が多く、ハジのように事故や模擬戦で制服をダメにしてしまった生徒がお下がりとしてもらって良いことになっている。

 だったら最初からここの制服を使わせて貰えば良かったのでないかと、ハジはミレーユに言ったが、あくまで予備であって、入学時には新品を用意するのが普通だと言う。

 手には分厚い封筒。手続きに必要な書類が入っている。昼間用意した荷物は、シャロンが学生寮のクロークに預けたので、持っているものは封筒と魔導礼装一式だけだ。

 魔導学校の敷地内とは言え、非常に広く大きな建物がいくつもある。慣れないハジが校門近くにある処置室から、校門から一番遠いところにある学生寮までたどり着くのは、本来なら迷ってもおかしくはない。ただ、既に陽は落ちてずいぶん経ち、校内で明かりが灯っているのは学生寮だけだったので、ハジは遠目からでも一目で分かった。それを頼りに石畳で舗装された校内を歩く。

 校内の建物は、小さな物を含めると二十棟以上あり、それらの建築様式はそれぞれ違う。建てられた時期もばらつきがあり、古びた物から真新しいまで色々だ。他にも所々に銅像や噴水や手入れされた樹木や倒ている女の子などが目に止まる。


「ええぇ」


 とある建物の側に置かれたベンチの上で女の子が横たわっている。

 ハジは時間が無いし無視しようかとも思ったが、大事になってはいけないし、一応一声かけておくことにした。


「おい」

「ぅん? なに?」

 女の子は目を覚まして気だるげに身体を起こし、腕を伸ばして全身をほぐす。


 ハジは胸ポケットのスカーフを差し出して、

「ああ、うん、とりあえず口ふけ」

「ありがと」


 女の子は小さな口から垂れるヨダレを拭いた。

 ショートカットの銀髪にアイスグレーの瞳と透き通る白い肌。

 小柄で華奢だが、ひ弱さは感じられず、むしろ高密度の存在感があった。

 彼女は真新しい制服の上着を腹にかけ、シャツはボタンが上から三つ外れ、スカートもはだけ、下着の布がチラリと見える。

 大方気分でも悪くなって横になっていたのかと、ハジは思った。


「お兄さん、臭うね」

「はあ?」

 突然失礼な事を言われ、ハジはカチンときた。


「血の臭いがプンプンする」

「さっきちょっとやりやったんだよ」

「ちょっと? そんなわけないじゃん、身体に染み付いた血の臭い。ちょっとやそっとでつくわけない」 


 女の子は、さっきまでとは打って変わり、だらし無かった口は攻撃的に口角を上げ、トロンとしていた眼は吊りあがる。ハジは氷水を被った様なゾクッとした感覚を覚えた。

 一瞬で変わった彼女の雰囲気に、ハジは危機感を覚えた。この切り替えの早さは一朝一夕で会得できるものではないのを知っているからだ。

 反射的にハジの身体は臨戦態勢になる。封筒を手放し、高虎ハイドラの柄を掴み、いつでも抜ける様にする。そうすると不思議と心も整うもので、彼女を斬る覚悟を決めた。それくらい彼女の出す威圧感プレッシャーは攻撃的だ。


「お兄さんさ、危ない人?」

 女の子はピョンと跳ね、ベンチの上にしゃがむ。手は軽く握りこみ、膝の上に置く。


「人聞きの悪い」


 キッと冷たい眼光がハジの全身の値踏みする。

 女の子はハジの予想と反対に、風船がしぼむようにクタッとまたベンチに横になった。


「……なんだぁ〜違うか、ゴメンゴメン、私の勘違いだ」


 ハジは警戒を解かず、

「疑いは晴れたのか?」

「疑ってたっていうか…… そんな気がしただけ。直感だよ」

「直感?」

「そう、お兄さんが危ない人だったら、殺そうと思っただけ」

 気だるそうに横たわる彼女はそう言った。


「……お前、人を殺して面白がる奴か?」

「だったらどうする?」


 また彼女からウラ寒い威圧感プレッシャーがハジに向けられた。さっきよりも強烈で、骨の芯まで凍えそうだったが、心を決めているハジはもうそれで動じることはなかった。


「どうもしない、お前の趣味に興味はない。俺が損をしなければどこで何をしようとお前の勝手だ」

「じゃあ、私が何百人と殺してても?」

「そりゃ死んだ奴が悪い」


 それはハジの本心だった。理由もなく殺される奴はそうそういない。当人の自覚はともあれ、決定的な落ち度があるものだ。ハジはそう信じていた。

 女の子はハジの言葉を聞いて急にゲラゲラと笑い出した。

 何が彼女のツボにハマったのか、ハジには理解が出来なかったが、ともかくもう襲ってくることはなさそうだったので、高虎(ハイドラ)から手を離す。

 女の子は腹を抱えて、ハジに近づき、バシバシと背中を叩く。目に涙を浮かべ、むせ返り、咳をしてようやく治る。


「ふひひ、お兄さん、面白いね。そんなの本気で言える人中々いない」

「はぁ?」

「私、アナスタシア。アーニャで良いよ。お兄さんは?」

「……ハジ」

「そっか、よろしくね」


 アナスタシアは満面の笑みだった。

 たった数分の間にコロコロと表情と態度が変わる。変な奴だなあとハジは思った。


 アナスタシアは立てた親指で学生寮を指して、

「それよりハジ、受付、良いの?」

「あッ!」

「急がないと、入寮できないよ」

「誰のせいだと!?」


 ハジは捨てた封筒を拾って、アナスタシアを置いて学生寮に向かう。

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