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誰が為の魔導技術  作者: 白牟田 茅乃(旧tarkay)
魔術師の卵たち
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シャロンⅣ

 入寮手続きを済ませたシャロンは学生寮本棟の式典会場にいた。

 この会場は本来なら食堂なのだが、式典仕様となっている。わざわざ赤絨毯を敷き、部屋の隅には四人の男が楽器を奏でる。テーブルには軽食というには勿体無いほどの美食が並ぶ、どれもシェフが腕によりをかけた料理ばかりだ。

 二百人近い新入生は半分が上流階級で、もう半分は中流以下だ。

 見分け方は簡単。立ち振る舞いを見れば一目瞭然。

 ほんの少し、だらしない方が上流階級だ。

 学生寮の歓迎式典とはいえ、帝国が主催するパーティだ。こういった華やかな場に慣れていない者は、粗相を犯さないように、神経をすり減らして完璧な立ち振る舞いをしようとする。

 対して慣れている者はラフにしても許される範囲を把握していて、かつそれを周囲に示すために絶対に何処かしらをハズす。

 例えばシャツのボタンや襟、カフスなどを変えたり、タイピンやベルト留めなどで目立たないように個性を出すのだ。それ自体は、ともすれば見逃してしまうような物だが、それも全体像としては垢抜けた印象をもたせた。

 あくまで、目立たないように、分かる者にだけに伝わるようにするのがマナーだ。

 ところがシャロンに話しかけた男はとにかく派手だった。


「ワッハッハッ! シャロン、遅かったではないかッ!?」

「鬱陶しいのが居たわ」


 シャロンはあえて聞こえる様にそう呟いた。

 ギラギラと輝く黄金の首飾り、両手の十本の指全てに黄金の指輪をはめ、それに加え燃えるような金髪金眼。

 照明の光を受けそれらは目の眩む輝きを放っていた。

 それでも不思議と下品さを感じないのは彼の有り様のせいだろうか。

 帝国皇帝、アインハルト・アレクサンデル・フォン・ゴールデンシュタイン。その人である。

 彼の脇には中性的で凛々しい顔立ちの従者が控える


 従者はシャロンに、というよりかは、周囲の者に向けて、

「無礼者ッ! 陛下に対してその口の利き方。不敬であるぞッ!」


 アインハルトは手で彼女を制し、

「まあよい、俺に軽口を聞ける者が帝国に一人くらい居ても良いではないか。二人はいらんがな。ワッハッハッ!」


 アインハルトの高笑いが会場に響いた。高圧的でも威圧的でもない、聞いている方に高揚感を与えるのは、アインハルトの地位とは関係なく人柄によるものだろう。

 シャロンは社交界に縁は無いが、軍に関する場合は別だ。帝国の皇帝とは即ち帝国軍の最高司令官であるわけで、軍の名門に生まれたシャロンは幼い頃からアインハルトと一緒になって遊ぶ事があった。


 シャロンはこれっぽっちも心を込めず、抑揚のない声で、

「これはこれは、陛下にお声をかけていただき恐悦至極でございます。陛下におかれましては魔導学校へのご入学、父に代わりお祝い申し上げます」


 気持ちよく高笑いをしていたアインハルトは、不機嫌そうに眉をひそめ、

「らしくもない事をしおって」


 シャロンは悪びれもせず、

「まあ一応、あなたにあったらそれっぽい事を言うことになっているんだから。あなたのほうがよくわかっているでしょう?」

 シャロンは手に持っていた葡萄ジュースを注がれたグラスを(あお)る。


「そう言うのは無能者にさせておけば良いのだ。ときに」


 アインハルトはわざわざもったいつけて、

「賊を取り逃がしたそうだな」

 シャロンは口の中の葡萄ジュースが急に苦くなった様に感じた。


 それを気合を入れて飲み込み、

「もう耳に入っているの」

「うむ、俺だけではないぞ。みんな知っておる」


 シャロンは周囲を見渡すと、誰も彼もシャロンの方を見ていた。目をそらす者が多かったが、中にはジロジロ眺めながら、気味の悪い笑みを浮かべている者も居る。


「で? 私に文句でも言いに来たの」

「いや、俺がとやかく言う筋でもあるまい。それよりも俺としてはシャロンと一緒にいたという男の方が気になってな。誰なのだ? お前のこれか?」

「下品よ」


 アインハルトは小指を立てて見せた。

 そんな俗っぽい仕草どこで覚えたのか、帝国の最高権力者なのだからも少し自重してほしいとシャロンは思った。


「田舎者に帝都を案内していただけよ」

「そうか、つまらんなッ。ワッハッハッ! アーッハッハッハッ!」

「それで? 賊の見当はついているの?」

「うむ、生存者が口を破った。いわゆる再興派の連中だ。」


 帝国はユーグラム大陸の西端から興り、次第に勢力を伸ばし、今では大陸の八割を支配下に置いている。長い歴史の中でも何度か内戦を経験しており。その度に王朝が変わっている。現在のゴールドシュタイン朝は、今から百五十年前の内戦で、帝冠を奪っている。

 再興派と呼ばれる人たちは、ゴールドシュタイン朝より帝冠から奪い返し、再び、返り咲こうとしている勢力だ。


「彼らの執念は、一世紀半では萎えることはない、か」

「執念深いのは良いとして、手段を選ばぬ輩の遇し方を俺は知らん。一刻も早く滅ぼさねばな」

「それこそ、あなたが出張る筋でも無いでしょう。専任の執務官もいるんでしょう」

「そうだな我らは予科生らしく、対抗戦に精を出さんとな」


 対抗戦は魔導学校予科生が行う、力比べの様なもので、この成績如何ではその後の人生を左右することもあり、まさに命がけの闘いになる。


「うちはまだ一枠空いておるが…… どうする?」

「結構」

「そうか残念だなッ」


 タイミングを見計らって、一人の男が現れアインハルトに耳打ちをする。彼の顔はさっきからアインハルトの側に控えていた女の従者と瓜二つであった。


「陛下、シュミット・フォン・ブレンダンが陛下にお会いしたと言ってきましたが、いかがしましょう」


 アインハルトは指先で頭を叩いて、記憶の手繰りながら、

「ブレンダン? 誰だそいつは」

「父親は学芸省参事官補でございます。昨年の園遊会でお会いになっておりますが」


 アインハルトは眼を瞑ってこめかみを押さえながら、

「ああ、あの冴えないタレ目か? そういえば同い年とか言っておったな…… 嫌がる理由もなし、会ってやろうか」

「それではこちらへ」

「うむ、シャロンそれではな! ワッハッハッ! ナーッハッハッハッ!」


 従者の男の方が先導すると、会場の人混みは見えない大きな手で掻き分けた様に割れ、アインハルトはその道を行く。

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