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誰が為の魔導技術  作者: 白牟田 茅乃(旧tarkay)
汽車に揺られて……
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ミレーユⅡ

 魔導学校医学部救急救命科は、魔術的アプローチで救命医療を研究する学科である。通常は魔導学校内で出た患者を受け入れるのみで、よほどの症例数の少ない奇病か、大規模災害でもない限りは学外の患者はまず受け入れない。魔導学校には戦闘手(アタッカー)を志す生徒も多く、毎日のように怪我人が舞い込んでくるため、それで十分に研究や教育ができるからだ。

 ミレーユはそんな救急救命科の教授だ。

 ハジのための根回しは終わり、後は本人が受付を済ませれば良いだけだったので、ミレーユは病院棟の救命処置室で待機していた。

 珍しく学外からの患者の受け入れを要請されたので、最初は断ろうと思ったが、患者がハジだとわかると流石に血の気が引いた。救急処置室に運ばれてきたハジは、顔色の割に意外とケロッとしていて胸を撫で下ろす。

 処置を進めてみると、肩の傷口に神経毒がたっぷりと付いていたが、直ぐに止血液パワーボンドで処置した事で体内に巡る量は微量で済んだ。

 とは言っても放って置くと悪化するだけだ。

 硬化した毒素を止血液ごと取り除き、消毒してから再生を促進させる霊薬をタップリと塗り、その上から包帯を巻く。


「半殺し、いや五分の二殺しくらいか?」

「何の話だよ」

「ミレーユ、容体は?」

 シャロンは急かすように聞いた。


「うん、命に別条は無い、あとは体内の毒素を取り除けば大丈夫。なあに、一時間くらいで終わる」

「そう、よかった」


 シャロンはホッと胸を撫で下ろした。

「それじゃあシャロン、君は式典に出たまえ」

「でも……」


 ハジが怪我をしたのは、シャロンが後ろを取られたのが原因だからか、出来るだけ付き添っていたいようだ。

 時刻は十七時四十九分、歓迎式典はもう始まろうとしていた。


「ここにいてもできることは無いよ、できることをしたまえ。君だって一応貴族なんだから」

「社交界に縁はありません」

「だから、一応と言ったろう?」


 魔導学校の入学生の半分ほどは貴族や官僚、富豪といった上流階級の子弟だ。

 そういった者たちと知己を得ると将来いろいろと良いことがある。そもそも、魔術師のヒヨッコに横の繋がりを持たせるのが魔導学校の設立の目的の一つにあるのだ。


「ともかく、ここに居ても邪魔にしかならないよ。シッシッ」

 ミレーユは追い払うように手を振るう。


「それじゃぁ」


 シャロンは懐から預かった銀時計と財布を取り出しミレーユに返すと、処置室のドアのノブに手をかける。

 反対の手を小さく振りながら、

「ハジ君、会場で」

「ああ」

 シャロンは部屋の外に出ると静かにドアを閉じた。


 ミレーユは、シャロンが出て行き気配がなくなるのを待ってから、

「さて始めようか。そこに入ってくれ」


 ミレーユは処置室の隅にある大きな荷物の上にある白い布を取り払った。

 それは巨大な水槽で、中には(あか)い液体で満たされていた。

 ハジは診察台から下りて、ダルそうに身体を動かしそれに近づくと、着ている服をその場で脱ぎ捨てる。


「真っ裸の若い男子と、密室で二人っきりってのは妙齢の女性として問題じゃない?」

「私は医者だ。全裸に一々欲情しない。君こそ良いのか? 簡単に裸になって」

「生憎老人に欲情しない…… 包帯は?」

 ミレーユは水槽のガラスに映る自分の顔を見る。ここ最近で一層老け込んだ気がした。


「それも一度取れ、あとで巻き直す」


 それを聞いたハジは引きちぎるように包帯を取り、裸になる。

 ハジは水槽の横にある踏み台を登っていく。

 一番高いところまで来るとハジの頭が天井に着そうだ。

 ハジは一度踏み台の一番上の段に腰掛け脚を緋い液体に漬ける。


「この後、身体を洗えるかな? どうにも俺の臭いってキツイらしくて」

「どうしたの急に、色気づいて」

「そんなんじゃ無いよ」

「シャワー室が向こうにあるから、それを使え」

「どうも」


 ハジは腰を浮かし緋い液体にザブンと沈む。

 ハジは肺を動かし空気を出して、液体を肺に取り込む。少しも苦しそうにしない。


「それじゃあ、開始する」

 ミレーユが水槽に手を付いて魔導力(エーテル)を流し込むと液体は怪しく光る。


第一章はここまで。

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