ハジⅩⅦ
リンドブルムの一同は寮の一階に集まっていた。
安いシャンパンのボトルと、いつもより肉が多く乗った皿が食卓に並んでいるが、誰一人それに手をつけていない。
最初はすぐに祝勝会をするはずだったが、「羽目を外すにしても、報らせを聞いてからにするのが礼儀だ」と何人かが言うと、反対する者も居なかったので一報を待つ事になった。
全身が包帯がで巻かれたハジは、一人掛けのソファに座って目を閉じていた。
自分で斬った手前、彼らが心配でならない。
時間が経つにつれ、徐々に皆の口数は少なくなっていく。
時計の針がもう少しで二十一時を示そうという頃、リンドブルム寮の玄関の扉が開き、シャロンが入ってくる。
彼女はニコリと微笑んで、
「撃墜した三人の手術が終わった。全員、命に別状なし」
死人が出なくて良かったと、ハジは胸が軽くなった。
一同もそう思っていたのか、寮の中に安堵の吐息がいくつも聞こえる。
ポンッと、シャンパンのコルクが飛ぶ音がすると、途端に酒の匂いが漂ってくる。
グラスが行き渡ると、エレンが嬉しそうに、
「リンドブルムの初勝利を祝してッ、カンパーイ!」
ワァァッと歓声が上がって、場の雰囲気は浮ついたものに変わる。
グラスを持ったシャロンは背後から近づき、ソファの背もたれ越しに、
「お疲れ様、初勝利おめでとう」
「いえいえ、お陰様で」
「ユニコーンのレギマスからあなたに伝言。“首を洗って待っていろ”、ですって」
「いや、俺は撃墜した身なんだが?」
協会本部でチドリと会った時のことを思い出す。身に纏った雰囲気は、絶対的強者の物であった。あんなのとは出来れば戦いたくないとハジは思った。
シャロンは神妙な目付きにに変わり、
「よかったわね、腕が見つかって、しかも殆ど損傷が無いなんて。あるのねぇそんな事」
彼女の言葉がチクリと胸を刺す。
ハジは周りの耳を気にして、用意していた嘘を吐く。
「ああ、本当に運が良かった。日頃の行いがよかったんだなぁ」
「そう…… どれくらいで包帯が取れるの?」
「腕は十日、他は三日だってさ」
「それは…… ご苦労様」
ハジの身体のことを知っているシャロンは、何か言いたげだった。
実際にはハジの腕は発見すらされなかった。迫撃塔の一撃で消し炭になってしまっただろう。
だが、造人槽に浸かり二時間ほどのメンテナンスで回復してしまった。
仕方なく、人造人間であることを隠すため、ハジは自分の容態を嘘を吐いた。黙っているだけ時には無かった、後ろめたさを覚える。口の中に苦い味が広がる。
三人掛けのソファで眠っていたアナスタシアは、ゆったりと起き上がる。
彼女は寝ぼけ眼でハジとシャロンの事をジッと見つめ、
「平気?」
心中を察してそう言ったのだろう。ハジはそれが嬉しくて、
「今、平気になった」
「……そっか、ふわあぁあぁぁッ、やっとごはん?」
アナスタシアは気持ちよさそうに身体を伸ばす。
顔を真っ赤にしたドロッセルと、両手にグラスを持ったニトラやってくる。
ニトラは片方をアナスタシアに差し出し、
「はい、アーニャちゃんのグラス」
「じゃあ…… ハジ隊がしょろったところで、改めてかんぱーい」
ドロッセルが舌ったらずな音頭をとると、再び寮内には歓声が上がる。
ハジはグラスに口をつけて泡立つ琥珀色の液体を流し込む。安酒の割に程よい甘さが口に弾けた。
現在休眠期間中
コメント次第でモチベーションが浮上します。




