ドロッセルⅥ
ドロッセルの心臓がバクバクと音を立てていた。
ユニコーンの後衛の事は迫撃塔の起動直後から、ニトラが銀色の仕業で捕捉していた。
彼は手負いのハジよりも足が遅く、近接戦闘も出来ないようで呆気なく撃墜した。だが腕一本失くし、全身に火傷を負ったハジも、彼を追い回したことで体力を消費し、直後にバイタルカラーがレッドになって撃墜となった。
「ニトラッ! ハジがッ、どうしましょう?!」
『落ち着いて、大丈夫、ドロッセルちゃんのする事は変わらないよ。僕とアーニャちゃんとでスキャットルナさんを抑える。タイムアウトでもリンドブルムの勝ちなんだから、気長にやれば良いよ』
言い聞かせるようなニトラの口調が、ドロッセルの拍動を鎮める。
「……分かりました」
その言葉の通りに、アナスタシアとニトラはレグリアを倒すと言うより、封じる戦い方をしているようであった。
その後、ドロッセルは寒熱天衣を展開し続け、島内を走り回る。
突然プゥゥゥゥッと管楽器の鳴る音が響いた。
その音は試合終了の合図である。知らない間に結晶体を破壊していたのだろう。ドロッセルは試合が終わった安堵感で満たされ、勝敗の事は頭になかった。
彼女の身体は試合開始時と同じように五感が利かなくなり、胃が持ち上がるような気色悪い浮遊感が支配した。
次に五感が利くようになると、そこは試合前に待機していた所だった、不意に着地したせいか体勢を崩し、尻餅を付いた。アナスタシアとニトラも同じように転移してきたが、体勢は崩さずしゃがんだ格好で隣にいた。
「やった、勝ったッ」
最初にそう言ったのは、ニトラだった。
彼は嬉しそうに小さくガッツポーズしていた。
それを見ると、勝利の実感が込み上げてくる。
「ぅぅうううおおおッ、勝ちましたぁぁ!」
起き上がったドロッセルはその場でピョンピョン跳ね、喜びを露わにする。
反対にアナスタシアは地面に寝転んで、
「しんど、今度はもっとわかりやすい戦いをしたい」
「あッ、そういえばハジは?」
「そうでしたどうなったんでしょう、生きてますか?」
撃墜の直前まで飄々としていたので、死んではいないだろうが、大怪我には違い無い。ドロッセルは心配になってきた。
「呼んだか?」
肩に毛布をかけたハジがしっかりとした足取りで歩いてきた。
彼は左腕は肘から先が失い。全身に巻かれた包帯は火傷の治療の為、緑色のゼリー状の粘液がベタりと付いている。
交信板越しの印象よりずっと痛々しい姿に、ドロッセルは言葉が出なかった。
ハジは全く参った様子は無く、むしろ不満そうに、
「絶対、設定がおかしい。まだまだ動けたのに」
「まあ良いじゃない、勝ったんだから」
「……そうだな、そういう事にしておこう」
ニトラの“勝ったんだから”を聞いて、ハジは表情を一転させ、ニコリと笑った。それを見てドロッセルは安堵した。
審判団に帯同していたミレーユが、ハジに向かって、
「行くぞ、怪我人はまとめて輸送する決まりだ」
「ああ、じゃあみんな、後でな」
医師達は生体保護液に浸かったユニコーンの選手たちを蒸気船に乗せていった。




