ハジⅩⅥ
試合開始後。
ドロッセルをフォローする為に、ハジは彼女の方に走っていた。
森の中は桟橋付近より一段と暗く、視界が悪い。隆起した樹の根やユルい腐葉土の地面のせいで思ったように速度が出なかった。
交信板の表示枠からは、ニトラの落ち着いた声が響く。
『動いた、一つはハジ、一つはドロッセルちゃん、二つ潜んでる』
索敵結果を聞いてハジは足を止めた。自分に的をかけられたなら、ドロッセルに近づかない方が良いと思ったからだ。
ドロッセルは動揺したのか、少し震えた声で、
『やっぱり私の方にくるんですかッ!?』
「残りは無理か?」
『スキャットルナさんは異能で機動力を確保してるだろうし、もう一人は後衛だろうから難しいかな。感熱探知に引っかかってくれると良いんだけど』
「まあ予定通りだ。アーニャ、間に合いそうか?」
アナスタシアは冷めた口調で端的に、
『無理、遠い』
「ドロッセル、凌げよ」
彼女は一層震えた声で、
『まッ、任せなさい。我を誰だと思っているんですかッ?!』
『ハジ、そっちも来るよ』
ニトラの警告からほとんど間を置かず、ハジの目の前に敵が現れた。彼はヒョロッとした背格好に見えたが、実際にはちゃんと筋肉の付いた体躯である。
彼の名前はディスト、ユニコーンの前衛だ。
高虎を改造品して槍にした、“貫虎”を手に持った彼は、青白く光る鋒をハジに突き出し咆哮する。
「うおおおッ!!」
強張った彼の表情は余裕が無いのを如実に示していた。
対してハジは眉一つ動かさず、高虎で槍を弾いていなす。返す刀で踏み込み、斬り返そうとする。
完全に入った。そう思った時だった。
「その太刀ッ、まあぁったぁぁッ!!!」
ハジの左耳に叫び声が飛び込んできた。
反撃をやめ、その声のした方に高虎を向け防護を固める。すると、重い物体が高速でぶつかって来た。腐葉土の上では踏ん張りがきかず、ハジの身体は十メートルほど滑る。
視線を向けると、そこにはレグリアの姿があった。
脚の四虎は青白く光っている。
彼女は着地すると、腰を落としグッと脚に力を込め、腐葉土を撒き散らし、弾けるような風切り音を残して姿を消した。
ディストの顔の横にある表示枠から、ハジにも聞こえるくらいの大声が響く。
『てめえディストッ!! タイミング全然合ってねえじゃねえかッ!!』
ディストは見かけに似合わずオドオドした様子で、
「レグリア、声が大きい、相手に聞こえるから」
『ざけんなッ!! さっさと終わらせて次に行きゃあ良いんだッ!!』
「だからッもっと声を小さく」
仲間の援護がついたせいか、ディストの表情はさっきよりも落ち着いたものになっていた。不思議と彼の身体は一回り太くなったようにハジは感じた。
「ふぅッ」
ハジは油断を払う為に、短く息を吐く。
音速を超えるはずのレグリアが声より遅れてやって来た。首尾よく進んでいる、とハジは思った。




