ハジⅩⅤ
四月二十七日、土曜日
ハジ隊の四人は小型の蒸気船から桟橋に上がった。
帝都ハウシュカは、ハウシュカ海峡の西岸の街と東岸の街を跨ぐ街、その海峡の中に浮かぶ島の一つがミュルゼン島である。
この島は、シメノキという植物の自生地である。元々は他の巨大な樹の森だったが、シメノキはこれらの樹木にツルの様に幹を伸ばし、絡まり徐々に太くなっていき、最終的には絞め殺す。このシメノキが縦横無視に生い茂るミュルゼン島は、晴天にも関わらず、幾重にも重なった枝葉が陽光を遮り、島内は薄暗い。
リーグ戦のファーストシーズンの舞台はこの天然の迷宮で行われる。
先発していた審判団が、テントを張って慌ただしく動いている。ハジはその中にミレーユの姿を見つけたが、忙しそうに打ち合わせをしていたので話しかけるのをやめた。
指定された待機場所に移ったハジ隊の四人は輪になって顔を付き合わせる。
「全員、準備はいいな?」
ハジがそう言うと、アナスタシア、ドロッセル、ニトラの三人は息を合わせて、
「「「おお〜」」」
緊張感の無い軽い声が返ってきた。
三人ともが、背が低く華奢なのが相まって、どことなくおままごとをしている雰囲気である。これはもうハジ隊のいつもの姿なので、ハジは逆に安心する。
全員が絢豪装甲を着て、アナスタシア以外は絢豪外套を羽織っている。
「ど〜もッ」
すると、ハジの背後から唐辛子をまぶしたような攻撃的な声がしてくる。
振り返ると、そこには音光硝板越しによく見た褐色肌の女がいた。
レグリア・スキャットルナである。
彼女は右手のグローブのきまりが悪いのか、しきりに気にしている。
両脚には重そうなレガースを装着している。膝、脛、踵、足の甲の四ヶ所に刀身が付いている。レグリアが職人に作らせた魔導礼装“四虎”である。
彼女を一瞥したハジは、
「今日はよろしく」
「うん、それじゃあご健闘を」
分かりやすい皮肉を言った彼女は、後ろに三人を引き連れ、彼女らの待機場所に歩いていく。
待機場所には緑色の生体保護液の入った大きな水槽と、魔導陣の書かれた大きな絨毯が敷かれている。
絨毯に乗っていると試合開始時に試合会場のどこかに転移される仕組み、逆に撃墜時には水槽の中に転移する事になっている。
他には結晶体もあった。高さが三メートルほどの透明な長方体で、表面には格子状に溝が掘ってあり、紫色の塗料で塗られている。これを破壊するか、相手を全員撃墜させれば勝利となる。
ハジは対戦相手の四人を指差し確認しながら、
「ディスト、ジュール、あと…… そう、ロゥラン」
ハジは頭に隅にあった、今日の対戦相手の記憶を思い出す。彼らの装備をジッと見定めていると、全員右手に同じグローブを着けているのに気がついた。
するとアナスタシアが、肘を立て脇腹をグリグリ抉ってくる。
「ハジ、難しいこと考えてる。どうせ、しょうもない事でしょう?」
「いや、全員同じグローブしてるから気になって」
ハジがそう言うと、楽しそうにしていたアナスタシアは一瞬で冷めた視線に代わり、対戦相手の四人を見定める。
「本当だ。魔術絡み」
「わかるのか?」
「うん、直感だけど」
「アーニャの直感は当たるからな。覚えておこう」
漠然とした不安を覚えたハジは、審判団の用意した時計を眺める。
試合開始はもう間も無くだ。




