シャロンⅩⅢ
四月二十六日、金曜日、夜。
夕食を終え、リンドヴルムのメンバーがまどろみ始める時間帯。
寮の一階のソファセットに陣取ってハジ、シャロン、アナスタシア、ニトラ、ドロッセル、の五人は、翌日に控えたリーグ戦の作戦を煮詰める為にミーティングを始めようとしていた。
他のリンドヴルムのメンバーは気を使っているのか、五人の他に人の姿が見えず、珍しく一階は静かになっている。
シャロンがテーブルに情報班から受け取った資料を並べている途中で、ハジが口を開いた。
「それでシャロン、頼んどいたやつは?」
「何とかグラディスを口説いたわ。中古品で、所有権はリンドヴルムに帰属するって条件だけど、良い?」
「……ああ問題ない」
ちゃんと理解していないのだろう、ハジはカクンとぎこちなく頷いた。
ふうッと息を吐いてシャロンは、資料の中の一枚の紙を指差す。
「まずは…… ユニコーンのオーダーの確認ね」
それは対抗戦の審判団が発表したオーダー表の写し。出場選手のフルネームしか書かれていない物だ。なので、彼女は更に別の資料を指差す。
こちらにはそれぞれの出場選手が装備しているであろう魔導礼装の一覧が載っていた。
前衛二人、前中衛一人、後衛一人の構成である。
サンダルを脱いだアナスタシアは、ソファの上に膝を抱えながら、
「この資料ってどうやって調べたの?」
「魔導礼装を店で買うと一々記録が付くから、情報班はそれを洗ったんですって。問題は、ここに載っていない礼装も持っているかも知れないって事」
「え? 記録つくんでしょう?」
シャロンは出来の悪い子供に教えるように、
「自作したり、個人間での売買には記録が付かない」
「ああ〜」
「前中衛の装備が集束煌だから、結構前がかりな作戦なのかな? 機動戦狙いかも」
ニトラは資料を手に取ってよく読んで分析する。
「でしょうね。で、一番厄介そうなのが彼女、レグリア・スキャットルナ」
シャロンは情報班から借りた音光硝板をテーブルに置き、弄りだす。
音光硝版は一見、ガラス板に金属板を裏打ちした物に見えるが、記録回路を取り付ける端子があり、映像や音を再生できる。魔導協会製の魔術礼装である。
サイズは幾つかあり、今テーブルの上にあるのは四インチの物だ。
映し出されているのは魔導協会の公式記録である。
どこかの競技場の中の百メートルトラック。
スタートからゴールまでを、真横から眺めるアングルである。
褐色の肌をした女の子が、今まさに走り出さんと姿勢を低くしているところで映像は停まっていた。
音光硝板の左下には数字が並ぶ、時刻を表しているようだ。
シャロンが音光硝板の側面についたボタンを押すと、映像の中のレグリアは土煙を上げ、轟々とした風切り音を唸らせながら端から端まで移動した。
激しくブレる映像が、音光硝板越しでも迫力が伝えてくる。
映像が停止すると、ハジは時刻を確認する。
「……一・五八秒ッ?!」
映像が動き出してから停まるまではそれだけしか時間が動いていなかった。
静止状態からのスタートなので、最高速度は音速を超えているだろう。普通の戦闘手が活性化したくらいでは到底追いつけない速度だ。
ハジはゴクリと息を飲んで、
「凄いな……」
「実際に目にするともっと驚くと思うわよ? “嵐脚の魔女”と言えば結構有名。リーグ戦のルール上、恐ろしく面倒なのよねぇ」
頬に手を当てたシャロンは、ため息混じりにそう言った。
音速で走るレグリアに近接攻撃は難しい。かといって射撃魔術の照準を定めるのも一苦労だろう。
ドロッセルとニトラは目を細めて資料を眺めながら、
「どうするんです? 捕まえられるんですか?」
「これは…… 倒せるのかなぁ」
アナスタシアは音光硝板に映るレグリアの姿を何度も見返してから、ギュッと目を瞑って考え込む。
すると、彼女は渋い顔して
「んん〜、ムリムリ、絶対追いつけない」
「追いつく必要は無いわ、要は無力化出来ればいいんだから、あなたならできるわ」
「無力化?」
アナスタシアは興味津々といった具合に耳を傾ける。
「いろいろ考えてみたけど、ハジ隊にしか出来ない作戦でいきましょう」
シャロンはハジ隊に自分の組み立てた作戦を伝えた。
するとドロッセルは意気揚々と、
「クックック、任せるがよい。この穢れた存在である我がッ、必ずやリンドヴルムに勝利をもたらしてみせましょうッ!」
急に空想モードになったドロッセルは、自信満々にそう言った。




