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フェリスⅠ

 フェリスはリンドヴルム主計班に所属している。

 身長一四四センチという身体小さなの女の子だ。喘息持ちで、青白い肌と色素の薄い髪がトレードマークになるほどの病弱っぷりである。幼い頃から医者の世話になっていてそのせいか、将来は内科医になりたいと思っていた。

 フェリスはドロッセルを元気づける為に一緒に、街に繰り出していたが、今は公園の中で発作に苦しんでいた。


「ゴホッゴホッ」

「フェリス、大丈夫ですか? ちょっと待ってください」


 喉の奥に栓ができたように息苦しい。

 それを吐き出すように咳をするが出て行ってくれるはずもなく、フェリスの喉奥にベッタリとくっついている。見かねたドロッセルが背中を摩ると、その手は異能を使っているのか、湯たんぽのようにジンワリと暖かい。

 すると血の巡りが良くなったのか、心が安らいだからか、自然と咳の量は減ってゆく。

 魔導学校のあるハウシュカ海峡の西岸側から、路面電車を使ってハウシュカ大橋を渡り東岸側にやって来たのだ。

 レジャー施設は大抵こちら側である。

 大衆向きとはいえさすがは帝都、三人とも地方出身だったので、地元の服屋よりも値段が高い。

 手当金を出せば買えなくもないが、そもそも予科生は外出時に制服を着るのを義務付けられているのだから、無理をしてもしょうがないと試着だけして諦めた。

 そして二人は公園に足を運んだのであった。

 この公園は広く、遊具も沢山ある。その為子供達の声が絶える事がない。そんな子供をターゲットにした胡散臭い露天商や、紙芝居屋の姿も見ることができた。

 そして発作が起こったのである。

 ベンチに座り、ドロッセルにしばらく介抱されていると発作は治まり、春の日差しを楽しむ余裕も出てくる。


 そんな中ドロッセルは、

「はあ」


 それは今日何度目の溜息だっただろうか。

 ドロッセルは三角帽子と髑髏の首飾り、眼帯と包帯、手製の杖を手に持って、漫画コミックの中から出てきたかのような格好なのに、意気消沈したその表情は、これっぽっちも楽しそうではない。普段は空想じみた奇行で周囲を呆れさせる事が多いが、旧市街から戻ってきてからというもの、肉体から霊格が離れていったかのように、憂いを帯びる事がある。

 フェリスは、ドロッセルが色んな人を見返してやる為に戦闘手アタッカーを目指している事を知っていた。

 できる事なら尊重してあげたい。だが戦闘手アタッカーになれば人を殺める機会はこれからもあるだろう。彼女に良心が備わっている事で、戦闘手アタッカーであり続けるのは不可能だろうと思った。


「……やめたほうが良い」

 その言葉は意図して言った事ではなかった。フェリスがどう言えばその想いが伝わるかと考えていると、つい口から出てしまったものであった。

 惚けていたドロッセルの耳にも入ったようで、パッと彼女の顔が上がる。


「へ?……」

「あの。その」

 思っていた事がそのまま出てしまったので、その先何を言うのかなんて考えてもいなかった。だが、フェリスは嘘をついたわけでもない。どうせならこの勢いのまま思った事を言ってしまう事にした。


「無理する必要ないって、ドロッセルには向いてない。コホッコホッ。戦いなんて専門家に任せぇゲホッゲホッ!」


 つい大きな声を出したせいかまたフェリスは咳き込んだ。

 本当はもっと言いたい事がたくさんある。戦闘手アタッカーなんてやめて人を救う方にドロッセルの異能を役立てれば良いじゃないか、とフェリスは考えていた。だかそれを伝える事すらままならない自身の身体が呪わしい。


 ドロッセルはフェリスの背中を摩り、

「私は…… 見返してやりたいんです……」


 ドロッセルはそう呟いた。

 すると、どこから泣き声が聞こえてきた。

 そっちを向くと小さな男の子が二人いて、片方の子は泣きながらもう片方の太っている子の胸倉に掴みかかっていた。

 風に乗って二人の会話がフェリス達のところまで聞こえてくる。


「婆ちゃんが言ってたぞ〜、お前ンち、カタオヤだからロクでもないんだって」

「ぢかうもん、お母ちゃんはッ」

「しつけえなッ!」


 そう言って泣いている子をぶん投げた。

 倒れた子はそれでも太っている子に食らいつく。


「あやまれッ、お母ちゃんにあやまれッ!」

「このッ」

 そう言って太っている子は手を握りこんで泣いている子を叩く。


「ケンカ?」


 ドロッセルはジーッと彼らのやり取りを見ている、すると突然スクッと立ち上がって、

「決めました」

「何を?」

「私、戦闘手アタッカーになります」

 ドロッセルの瞳にはさっきまでは無かった、熱意と呼べるような、メラメラとしたものが見て取れた。


 驚愕したフェリスはドロッセルの裾を掴み、

「何言ってゲホゲホッ!」

「私は…… 今まで自分のために戦おうと思ってました、でもそれじゃいけなかったんです。ちょっと行ってきますッ!」

 そう言って、ドロッセルはフェリスの手を掴んで指を解くと、男の子達のところに駆けていく。


「くっくっく。我は天使と悪魔の間に生まれた穢れた存在ッ、我の前でケンカなどという愚かな行いはやめるが良い」


 突然登場したコスプレ女ドロッセルに泣いている方も太っている方もポカンと惚ける。 ドロッセルはいつもの調子に戻っていた。


 彼女は男の子達の手を取って、強引に握手させようとし、

「さあさあ、我の前で仲直りの契りを交わすのです」

「へんたいぃぃぃうわわわあああん」

「なんだこいつッ! きもちわりい逃げるぞ」


 二人は一度手を振り払った後で、太った子が泣いている子の手を引き、ドロッセルから逃げ出す。

 最初の印象よりずっと中の良さそうにフェリスには見えた。恐らく太っている子は片親の意味をよく分からずにからかっていたのだろう。


「へ…… へん、たい。私が?」


 ドロッセルは糸の切れたようにその場にくずおれる。変態扱いは相当ショックなようだ。

 それでも、さっきまでよりかはずっとドロッセルらしいと、フェリスは思った。


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