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アナスタシアⅤ

 リンドヴルムの一同は手当金を片手に街に繰り出す。


 帝都ハウシュカは東西にある陸地から半島が伸び、その海峡部にある。半島同士の最狭部は一キロに満たない。古くから陸路、海路の要衝であった。

 西岸側には歴史的な建築物が建ち並び、東岸側には近代的な建築物が建ち並ぶ。西岸側にある商店は高級店ばかりだが、その中で数少ない大衆向けの店にリーリスはシャロンに連行され、それハイディが付いていく。

 アナスタシアも三人について行く事にした。


「おっぱいが揉めると聞いて」

「ダメですよッ」

「そうよ、他にも楽しみ方は色々あるの。擦ったり挟んだりもするの」

「お前、男の目が無いと本当にどうしようもねぇな」


 そこは女性物の下着や部屋着を専門に扱う、いわゆるランジェリーショップだ。

 宮殿通りに構えるその店は、特に看板もなくショーウィンドウも無く、そうと知らなければお店だとも思わないだろう。

 店内は生活感のある白を基調とした明るい雰囲気で、下着を着けたマネキンが所々に立っている。西岸側の店ということもあり、客層も落ち着いた淑女が多い。

 そんな中でかしましく騒ぐ四人は大分浮いていた。

 初老の女性の店員が探りを入れる目つきで駆け寄って来る。着ているスーツにはネームプレートがつけられ、カトリーナ・タイラーンと書かれていた。


「いらっしゃいませ、何をお探しでしょう?」

「可愛い下着を一式」


 シャロンがリーリスの背中に回りこみズイズイッと押す。カトリーナの前まで押し出すと腕を回し羽織っていた絢豪外套アラクネ・マントの裾をつまみハラリとめくる。


 リーリスはビックリして腕で胸元を抑え、

「ひいい」


 もちろん普通に正式制服フォーマルを着ているのだが、シャロンのいやらしい手つきにリーリスの身体には戦慄が爆走し、思わず声が出た。

 彼女の胸元を見たカトリーナは急に嬉しそうに顔が明るくなる。アナスタシアは、カトリーナがシャロンと同類なのだと察した。


「まあ、まあまあ! お客様失礼ですがカップのサイズは?」

「いえあの、最後に測ってからずいぶん経っているので……」

「それはいけません、しっかりとサイズを把握して、合ったものを着けないと形が崩れてしまいますよ? さあこちらへどうぞ、ついでにスリーサイズ全て測りましょう」

「お手伝いしますッ」


 シャロンとカトリーナはグイグイとリーリスの手を引き、邪魔にならないように店内の隅まで連れて行く。絢豪外套アラクネ・マントとブレザーを手慣れた手つきで脱がせたのち、まるで彫刻を扱うようにジックリと丁寧に採寸を始めた。


「お前は良いのかい? リーリスに絡みに行かないで」

「うーん、リーリス本気で嫌がってるっぽいから…… まだ揉めるほど好感度が足りないんだよ。ハイディこそ良いの? 止めなくて」

「まあ、採寸はして損は無いし、一線超えそうなら止めるけど」


 そう言いながら、ハイディは腰のホルスターに収まった拳銃のような形をした戦闘用の魔導礼装に手をかける。

 ハイディは正式制服フォーマルのブレザーを着ているが、スカートではなくスキニーなパンツを履いている。ヒップラインが綺麗に出て、スラッと脚のラインが出ている。

 アナスタシアはその場にしゃがみ、目線の高さをハイディのお尻に合わせる。


「ハイディはおっぱいも良いけど、本領はお尻だよね」

「なッなんの話だい?!」

「いやいや、私が見てきた中で三本の指に入るよ、こう…… 大きいんだけどちゃんと引き締まっていて、何より形が良いよね」

 ハイディは顔を赤くし、両手でお尻を隠す。流石にジロジロと見られると恥ずかしいようだ。


「“揉ませて”なんて言うんじゃないだろうね」

「いやいや、良いお尻とは思うけど私のヤル気を駆り立てるほどじゃないかな」


 アナスタシアは異能“強化洞察力スーパースレッショルド”はとんな小さな変化も見逃さない能力だ。それによって、常人では到底気がつかない事も手に取るようにわかる。

 ただ、その異能を活かすには、過去に見聞きした記憶と照らし合わせてどれだけ違うのかを計算する必要がある。そのため、アナスタシアは自分の知らない物の情報を集めようとする癖がある。

 アナスタシアから見て、ハイディのお尻は魅力的だと既に充分知っているので、別段何かしたいとは思わない。


「リーリスの乳はヤル気を駆り立てる?」

「あれは良いね、未知の領域だよ」


 アナスタシアはシャロンとカトリーナに揉みくちゃにされているリーリスを眺める。

 いつの間にかブラウスとスカートも脱がされ下着姿になっている。採寸は既に終わっている様で、シャロンとカトリーナが代わる代わるハンガーにかかった下着を持ってきてリーリスに勧める。

 多少困惑しているようだったが、それでも可愛らしい下着を見るたび、リーリスの戸惑いもほぐれて楽しそうに下着を眺める。

 シャロンは極力穏やかを装っているが、スキあらばリーリスの胸に手を伸ばそうと虎視眈々としているのをアナスタシアは見抜いていた。


 ハイディもその事を分かっている様で、

「シャロンの野郎、力技から搦め手に切り替えやがったな」

「ていうかなんであそこで脱がされているの?」

 シャロンとカトリーナがよこしまな熱気を発しているためか、店内の客は彼女らに釘付けだ。


「試着室に入ったらもう後がないからだろ? ……あの店員、何であれでクビにならないんだよ」

「それは……」

 別の若い店員が申し訳なさそうに俯き近寄ってくる


「あの人が当店のオーナーです」

「うわぁ」


 ハイディの口からとびっきりの呆れ声が漏れる。

 自分の趣味のために店一つ開いたようだ。


 若い店員は気持ちを切り替えるためにパンッと一回手を叩き、

「お二人は何かお探しの物はありますか?」

 ハイディはすぐ近くのブラジャーを手に取った。フリルや刺繍が施されたもので、いかにも女の子らしい一品である。


「あたしはいいや、こういうヒラヒラしたの要らないし」

「そうだよねブラジャーとか要らないよね」


 アナスタシアがそう言うと、若い店員は口に手を当てて考え、

「……“ヒラヒラ”が邪魔なんですか?」

「“ブラジャー”が要らない。窮屈じゃん」


 アナスタシアは首をブンブンと横に振る。

 ハイディは店員の言わんとしている事が理解できた様で、ギョッと目を見開き、アナスタシアの服を見る。

今日のアナスタシアは、黒のショートパンツとかなり薄手で大きめのキャミソールで、腰に略式制服カジュアルのジャンパーを巻いている。

 ハイディはアナスタシアの胸倉を掴む、グッと引っ張り中を覗き込んだ。


「何もつけてねえじゃねえかッ!!」

「へッ? キャミは下着つけなくてもいいって聞いたんだけど……」

「ダメってか…… ダメだろッ、見えるだろコレッ! こういう緩いのは下になんか着るんだよッ!」

「大丈夫、ちゃんと気をつけてる。動きは制限してる」

「制限つけないで下着つけろよッ!」


 ハイディは、アナスタシアの腰に巻いてあったジャンパーを解いて肩にかけた。大声を出したせいか、シャロンとリーリスとカトリーナが戻って来る。


「お客様、恐れ入りますが、少々声を低くしていただけると」

「連れがご迷惑をかけ私も心苦しく思います。二人とも、マナーがなっていないわ」

「二人にそれを言う資格ないですよね? あと服返してください」


 リーリスはいつの間にかブラジャーも剥ぎ取られショーツ一枚になっている。いくら女性しかいない空間とはいえ、恥ずかしくてたまらない様子で、顔どころか全身真っ赤にして胸元を隠している。

 そんな異様な状況にハイディは一瞬気圧されたが、すぐに気持ちを切り替え、アナスタシアが下着をつけていない事を告げた。


「そんな事はとうの昔に看破しているわ」

「はい、私はお客様が入店された時からすぐに、しかしそれはそれで…… はッ?!」

 アナスタシアの身体を入念に観察していたオーナーは雷に撃たれたように驚く。


「師匠ッ?! どうされましたッ?!」

「……一見してどこにでもありそうな小ぶりな乳房。しかし、実際には張、艶、形。三拍子揃った、極上の一品」

「何言ってんだこのオバさん」

「本気で気持ち悪い」

 アナスタシアとハイディは遠慮なく毒づいた。リーリスはこの二人を相手によく我慢したと思う。


 シャロンはマジマジとアナスタシアの胸元を見つめ、

「……貧乳、そう言うのもアリか……」

「フランベルゼ嬢はまだまだ女体の神秘を知らないようですね。修行が足りません」

「恐縮です」

「魔術の修業してください。あと服返してください」

「何を言っているの、下着選びはまだまだこれからよ」

「ええ~ッ?! もういいじゃないですかぁ~」

 リーリスは涙目になってハイディの背後に隠れてしまった。


 シャロンとカトリーナは眼を合わせ、もう諦めたようで肩をすくめ、

「分かったリーリス、そろそろ真面目に選ぶわ」

「そちらのお嬢さんも。サイズの合った物なら、むしろ着けてて心地よいものですよ?」

「……アーニャちゃん、どうしよう?」

 リーリスは涙目になってアナスタシアに聞いてきた。


 シャロンもカトリーナも嘘をついているようではなかったので、

「あー、うん本気っぽい」

「……じゃあ今度こそちゃんとして下さい。あと服返してください」


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