グラディスⅡ
四月十五日、日曜日の朝にそれは起こった。
ただでさえ最近良いニュースが無いのに、前日にリーグ戦の二回目の不戦敗を記し、判っていた事とは言え、一位のレギオンとの点差が目に見えて開くのはやはり士気が下がる、筈であった。
が、朝一番に全員集合し、学生寮本棟の食堂に行く前にとある発表があり、一同に与えた歓喜は、そんなものを吹き飛ばしてしまった。
グラディスの発表に、ジャスパーがいの一番に反応した。
「手当金…… だとッ?」
「はい、まあお小遣いと考えてください。四月分はみなさん同額、来月からはリンドヴルムへの貢献度に応じて変動しますので」
この前の日に第二回執行部会があり、そこで各自が自由に使える金があったほうが良いだろう、という事になったのだ。
それを提案したのがグラディスだったので、また一同に驚きを与えた。
グラディスとしては極力無駄遣いを減らしたいので、それまでリンドヴルムではどんな小さな出費でもグラディスの承認が必要だったが、締め付けがキツすぎると士気が下がる。
っかといって一人一人無際限に要望を叶えていける筈もなく、その際生じるストレスはグラディスに向くだろう。それは御免こうむりたいところであった。
そこで自由に使えるお金を支給しておけば、「どうして自分でやり繰りしなかったのか」と向こうの責任にする事ができる。
財布は痛むが、長期的に見れば士気向上の効果は十分期待ができるだろうと彼女は踏んでいた。
一同は一列に並び、自分の名前が書かれた給料封筒をグラディスから順番に手渡されていく。
みんなの顔はホクホクと嬉しそうに笑っている。
全員に行き届くと、一同は浮ついた足取りでリンドヴルム寮を後にし、食堂に向かっていく。
リーリスは両手で給料封筒を大事そうに持ち、二ヘラと緩んだ表情で、
「グラディスちゃんは何に使うんですか?」
彼女の脚はもう完治して、杖もなく普通に歩いている。さすがは再生魔術、後遺症もなく治してしまった。
グラディスはずり下がった眼鏡を直しながら、
「貯金です」
「グラディスちゃんらしいな……」
「そういうリーリスさんは?」
「そうですね…… やっぱり服屋さんを見て回りたいですねぇ。田舎暮らしだったので、野暮ったい服しかないんですよ」
リーリスは照れながらそう言った。
「予科生は寮外では私服厳禁ですよ?」
彼女はグラディスの言葉を聞くと、プシューッと音が聞こえてきそうなほど見る見るショボくれていく。
「そうなんですよねぇ。どうしましょうか」
「まあ、着崩しは黙認されてますから」
リーリスはブンブンと首を振って、
「そういうのも結構上級者向けな気がします」
「でしたら…… 下着とか寝間着とかに拘るってみるとか」
オシャレを気するという事は、人の目を気にしているということである。
人によっては、気恥ずかしさから、中々最初の一歩を踏みさせない者もいる。そういう時は、人の目に触れにくいところから始めると良いだろう、とグラディスは聞いたことがあった。
彼女は目を逸らしながら、
「下着、ですか。でも可愛いのって、中々無いんですよね」
グラディスは視線を下に向ける。服の下にスイカを二玉入れているのかと疑いたくなるような胸がそこにある。“私に合うサイズの”とつけなかったのはリーリスなりの気遣いだろうか。
グラディスのスタイルは同年代と比べて平均的だ。少なくともスリーサイズは平均的だ。
それでも彼女から見れば大概の娘は貧乳扱いである。
「呼んだ?」
「呼んでません」
グラディスとリーリスの間にシャロンが割って入ってくる。
表情は凛々しいが狙いは明らかだ、
「オシャレはともかく、下着に関しては自信があるわ。具体的にはフィッティングに自信があるわ」
「出た、エロ怪物」
「失礼ね、怪物って通り名、嫌いなの」
リーリスは苦笑いしながら、
「エロに関してはスルーなんですね」
指を艶めかしく動かすシャロンは、
「早速後で出掛けましょう。安心して、良い試着室のある店を知ってるから」
「せめて良い商品のあるお店に連れて行ってくださいよ」
「まあ、無駄遣いしないようにしてくださいね」
乾いた笑みを浮かべ、グラディスはそう言った。




