ドロッセルⅣ
ドロッセルは昔の夢を見ていた。
両親を早くに亡くし、孤児院育ちの彼女には幼い頃から空想癖があった。
周囲の人間はそんな彼女を気味悪がり、避けがちだった。あからさまなイジメはなかったものの、孤独な生活は彼女の空想癖に拍車をかける。
中等学校に上がってから一年ほど経つと、自分に特異能力が備わっている事を知った。
きっかけは、同級生との口論であった。
「孤児院出身はろくな大人にならない」と言われて、ドロッセルは珍しく怒った。身体を駆ける激情をグッと堪えていると、周囲の人間は逃げ出していた。
無意識に発動していた寒熱天衣が熱気と冷気を撒き散らしていた。
本来、異能というのは制御が難しいが、培った空想癖のおかげで異能を制御するイメージは完璧だった。
そしてドロッセルは、今まで馬鹿にしていた同級生を見返してやると、心に誓ったのだ。
ドロッセルの額に冷たい感触が乗る。
「ううん?」
ドロッセルはゆっくりとまぶたを開けた。
「ドロッセル、気分は……」
ドロッセルは重たい身体を起こし、首を振って辺りの状況を把握しようとする。
拘束された男達が九人、地面の上に腹ばいになっていて、それを瓦礫の上から見下ろす格好でアナスタシアが監視している。
彼女はかなりご立腹の様子で、男達に対して今にも手を出しそうな、殺気だった威圧感を放つ。男達もそれが分かっているのか。ガクガクと身体を震わしている。
その隣には死体なのだろう、血溜まりを隠すように布をかけられた所が、こんもりと盛り上がっている。
人が少ない事に気がついたドロッセルは、
「ニトラは、どうしました?」
「女の人達を連れて帝都に向かった」
「女の人…… そうでした、あの人たちは?」
「とりあえず、命に別条はなさそう」
「そう、ですか」
女の人達の命を助ける事が出来きたのを知って、ドロッセルは安堵した。
同時に取り返しのつかない事をした実感が、彼女の身体の中に渦巻く。寒くもないのに全身が震る。呼吸がうまくできない。真冬に沼に落ちたらこんな感じなのだろうか。
ドロッセルは絞り出すように、
「……私は…… 殺すつもりはなくて……」
「わかってる、見てたよ」
ドロッセルの眼からはボロボロと大粒の涙をこぼれ出す。涙の量は、後悔の想いの分だけ流れ出る。
「ゴメン、なさい…… ゴメンなさいッ……」
ドロッセルは思った事が、ただ口から漏れ出す。
「わた、しぁ、だずけ、たぐってぇ……」
「見てたよ。ごめんな、辛かったな。追い詰めるような事して。お前は真っ当だよ、俺にはできないよ」
「うう〜、うわわわああああッハジのバガァァ」
ドロッセルはハジのズボンに顔を押し付け一層大きな声で泣く。溢れ出る涙のせいで彼のズボンは直ぐにビシャビシャになる。
ハジはドロッセルの頭に手を置き、
「俺がもっとうまく出来たら良かったんだけど、下手くそだから」
「うううッ〜〜、ううう」
ハジの言葉はドロッセルの頭の中には入ってこなかった。何かを考えられるほどの余裕はなかった。ただ、彼から物凄く優しい言葉を言われた気がして、首を縦に振って応えた。




