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誰が為の魔導技術  作者: 白牟田 茅乃(旧tarkay)
知っている事、知らない事
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ロックⅠ

 ロックはハジと別れた後、待機しておいた人形パペットによって腸の蟲ベルゼブブのアジトの一つに運び込まれた。

 右半身が縦に裂け、常人ならば即死してもおかしくはない状態だったが、人造人間ホムンクルスなどと言うデタラメな身体だけあって、死ぬ事はなかった。

 人造人間ホムンクルスを製造する際、材料となった人間の脳髄と魂魄(エンジン)を結晶化させ、エリクシル体と呼ばれる鉱物のような物を造り出す。これは通常、第七頸椎うなじのしたに埋め込まれている。これが人造人間ホムンクルスの唯一の急所と言え、それ以外の部分と違い、これに関しては破壊されると替えがきかない。

 逆を言うと、これ以外の部分が損傷してもそう易々と死ぬ事は無い。


 ランプの火が頼りの、薄暗い部屋の中で、ロックは第六十九号造人槽フラスコに沈んでいた。

 高さ二メートル以上円、筒状の造人槽フラスコの中は真っ赤な液体で満たされていた。これが人造人間ホムンクルスの原料、生命の水アロマタイズ。生きたままの人間をミキサーにかけペーストにした物だ。人造人間ホムンクルスとは一対同義の関係で、ロックが他の生命の水アロマタイズにつかると死に至る。

 ロックは造人槽フラスコに沈んでいる間ずっとハジの事を考えていた。彼女にとって、兄弟が全てだったからだ。

 自分にとって可愛いくて仕方がない弟が、自分が差し出した手をブッタ斬った事がショックだった。どうしたらハジの考えを正す事ができるのかそればかりを考えていた。

 この中に放りこまれて一時間、失った腕と脚はもう再生が済んでいた。指を動かし、滑らかに動くのを確認すると、ロックは浮かび上がり、造人槽フラスコの縁に手をかけ降りる。着地の際にふらつき、生命の水アロマタイズが滴り落ちて床を濡らす。


「身体の調子はどうだ?」

「……かなり重い」


 とある人物がタオルを持ってやって来た。

 ロックはタオルを受け取り身体を拭く。生命の水アロマタイズの材料は人間だけに、血肉の臭いが身体に染み付いているのが分かる。


「だろうな、もうお前の澱は底をついた」

「わかっているよ、母さん」


 ロックは自分の数字が書かれた造人槽フラスコの底を見ると、そこにあるはずの“澱”がなく、完全に澄んだ色をしていた。

 生命の水アロマタイズは上澄みと沈殿物の二層に分かれる。人造人間ホムンクルスは沈殿物を押し固めて造ることになり、身体のメンテナンスや回復を図る際にも消費する事になる。

 それが尽きたということは、今後ロックの身体が傷ついた場合、今ある身体を削りメンテナンスをしなければならない。その度に彼女は弱り、いずれ寿命が尽きるだろう。残された時間はそう多くは無い。

 その前に、ハジを迎えに行きたかった。


「母さん、もう一度行かせてくれよ、次はもっと上手くやるから」

「ダメだ、しばらくは大人しくしておこう。お前のお陰で資金も溜まったからな。九十号代も随時稼働、試運転が始まる。それが終われば遂に計画も佳境。わかるだろ? 八十二号に構っている暇はない」

「でも」

「……ロック、お前はもう劣化していくだけだ。もうお前に仕事を振ることも無い。後は大人しくしていろ」

 そう言うと“母さん”はロックに背を向け部屋を出て行く。


「俺は…… 諦めねえぞ」


 誰もいない虚空に向かってそう言った。

第五章はここまで。

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