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誰が為の魔導技術  作者: 白牟田 茅乃(旧tarkay)
知っている事、知らない事
38/63

ニトラⅢ

 ハジ隊は日が落ちる前に旧市街の端までやってきた。地図上のマークを頼りに今晩の夜営ポイントを探す。

 旧市街の端も端、草原との境界線上にその建物はあった。

 明らかに他の建物より建てられた時期がズレている、煉瓦造の二階建ての小屋だ。重い鉄の扉を開け中に入る。

 中は整備され、医薬品や非常食、火薬式のライフルと弾薬、小型の蒸気発電機と石炭など、十分な物資が溜め込まれていた。

 二階には観測用の機材が埃を被っていた。こちらは、放棄されてから随分と時が経っていたようで、傷みがひどい。

 ここは元々は気象観測用の施設だ。ここから観測用の気球を飛ばし、必要なデータを取るために使われていたのを軍が引き取って、拠点として活用している。


 天井から吊るされたランプに火を灯し、荷物を降ろすとニトラは少しリラックスできた。

 アナスタシアは絢豪外套アラクネ・マント絢豪装甲アラクネ・アーマーを脱ぎ捨て、ググッと身体を伸ばし、

「ああ〜、着いた〜」

「あんまり気ぃ抜くなよ。飯食ったら交代で休もう、まず俺とアーニャが休む、その間ニトラとドロッセルは周辺警戒」


 椅子に座るドロッセルはショートブーツを脱ぎ、脹脛ふくらはぎをもみながら、

「うう…… 先に休めないんですか?」

「別に横になれる時間は変わらないよ」


 朝方あったドロッセルの威勢の良さはどこかに行ってしまった。肉体的な疲労もそうだが、精神的な負担も大きいのだろうとニトラは思った。

 火を起こし、小さなフライパンをその上に置く。ベーコンエッグを作って厚切りの食パンの上に乗せる。

 あとはトマトとオレンジ、それぞれ半分づつが今晩の食事だ。

 四人は黙々と口に運んだ。

 重苦しい空気だ。その所為で、濃い味付けのベーコンエッグはなんだか砂を噛んでるように味気ない。ニトラは雰囲気を変えたくて、地図を取り出しその裏に書いたメモを見て、今日の戦果を確認する。


「ハジ、今日のところは、まずまずの出来だったんじゃない?」


 すでにノルマの七割ほど討伐できてる。怪我人もなく、ほぼ予定の時間に拠点に到着できた。

 十分褒められる内容だとニトラは考えていた。


「任務の最中に評価なんて出来ないよ。わかってんだろ」


 そう、ここまで順調でも、帰り道にトラブルが起これば何の意味もない。特にドロッセルの様子を見れば、この先楽観視する方がおかしい。

 ハジはお昼からずっとピリピリしている。ドロッセルにプレッシャーをかけるために意図してやっているのだろう。

 ニトラはもう諦めて、そのままの雰囲気で四人は黙々と食事を口に運ぶ。


 全員が食事を終えると、ハジは銀時計を見ながら、

「今が十九時だから…… 日付が変わったら交代。明日は五時になったら飯食って出発、ニトラ、任せたぞ?」

「わかった、じゃあ行こうかドロッセルちゃん」

「はい」


 ニトラはドロッセルを引き連れて、二階に上がり、そこから伸びる階段を上がって、屋上に出る。 屋上は周囲の建物よりも一メートルくらい高いが、それだけで見晴らしが別格に良い。

 頭上には満天の星空が広がる。明かりにまみれた帝都からでは見えないような、小さな星までちゃんと見える。あまりに綺麗だったので、ニトラはうっとりして天体観測に浸っていた。

 ハッと、自分の役割を忘れていたことにニトラは気がついた。周辺警戒を怠ってはならない。

 と言っても、すでにこの小屋の周囲には銀色の仕業シルバリオンの展開が済んでいるため、目視の監視にはあまり意味がない。

 それこそ、ドロッセルの目を借りる必要なんてない。


「ドロッセルちゃん大丈夫? 休んだら?」

「いいえ、平気です」

「ハジには秘密にしておくよ?」

「……ズルはダメです。英雄のすることでは無いのです」

「そっか、ドロッセルは偉いねぇ」


 ニトラは旧市街の方に目を向け、ドロッセルは反対の方を向いて監視をする

 しばらくそうしていると、ドロッセルは口を開く。


「ニトラは人を…… 殺したことがありますか?」

「あるよ」

 ニトラが即答すると、彼女の身体がビクッと浮き上がったのが背中越しでもわかった。


「それは…… どんな?……」


 あまり、自分でも思い出したい事ではないが、ニトラはその時の経緯を説明した。面白い話でもなかったので出来るだけ要約して。

 十歳の父親に連れられて、とある密林を探検していた時、そこで密猟者と出くわした。逮捕したかったが、強く抵抗されたので仕方がなく殺めることになった。

 その時のことは今でも夢に見る。密猟者の断末魔の叫びは、脳裏から離れることが多分一生ないのだろうと、ニトラは思った。


 それを聞いたドロッセルは、

「私は……」

 それだけ呟くと、彼女はもう何も言わなかった。


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