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誰が為の魔導技術  作者: 白牟田 茅乃(旧tarkay)
知っている事、知らない事
35/63

ニトラⅡ

 ハジ隊の一行はオオゴケネズミを退治した後も少し探索を続けたが、危険種と遭遇することはなかった。比較的綺麗な建物を見つけたので、その中で休憩をとる。

 十一時とランチには少し早いが、朝が早かったのでこのタイミングで食事を摂ることになった。

 この時間ならリンドヴルムの方では開幕戦が終わっているだろう。棄権すると聞いてはいたが、事故とか起こっていないかニトラは少し心配だった。

 銀色の仕業シルバリオンの中に収めた食材を取り出す。火を起こし、それで極太のソーセージを焼く。乾パンと瓶詰めのピクルスを添えれば食欲をそそるランチが完成する。

 噛み付くとカリッとソーセージが弾け、ジューシーな大量の肉汁は溢れ出す、口から垂れるほどだ。

 遠征時の食事は肉が多い。これは結構な役得だなあ、とニトラは思った。


 アナスタシアはソーセージを頬張りながら、

「午前はコケネズミらけだったね」

「危険種だって人間の近くに居たくないんだよ。これから先はもっと増えるんじゃないかな?」

「だとすると、かなりペースが悪い。日が暮れるまでに端まで行けないな」


 ハジは地図を広げて四人が見れるようにする。

 地図は赤い鉛筆で色々とメモが書き込まれている。走り書きなので、ニトラにはうまく読み取れないが、かなりマメにメモを取っているようだ。

 ハジは現在位置に丸印をつけた。


「半分以上進んでんじゃん」

「危険種を見つけるたびにペースが落ちる。ギリギリの行程は嫌だし…… 速度をあげよう。それより、旧市街の地面はどうなってんだ?」


 ハジは先ほどの崩落がいたく不愉快なようだ。

 ニトラ自身、足元がおぼつかないのは御免こうむりたい。


「うーん、地下水道があるところだったんじゃないかな?」


 街を作る上で治水は重要な公共事業の一つだ。

 雨水はもちろん、生活排水を街の外に出すには、綿密な計画に基づく下水道が必要だ。帝都ハウシュカにも大通りの下に、地下水道網が走っている。

 グラディスの手配した地図には、その様なことは書かれていなかったが、おそらく旧市街にも地下水道があるのだろう。

 ただでさえ痛んでいた地面が、ドロッセルの作り出した氷塊の重さに耐え切れず崩れたのだ、とニトラは考えた。


「アーニャ、お前気づいてたか?」

「うん、足元がイヤに響くから」

 だったら最初からそう言って欲しかった、とはニトラには言えない。アナスタシアに取ってそんなことは自明なことなのだから。“カラスは黒い”と一々確認するくらいおかしなことだ。


 口の端に食べカスをつけたドロッセルが、

「だったら最初からそう言ってください」

 それを聞いたアナスタシアは不満そうに眉を寄せ、頬を膨らませる。


 ドロッセルはその時のことを思い出したのか、顔を真っ赤にして、

「おかげでお尻触られちゃったじゃ無いですかッ」

「ぶぅ、その程度で文句言われてもぉ」

「根に持つタイプなんだね」

「しょうのない、じゃあアーニャの尻揉ませてやっから…… それでいいだろ?」

「いらないですよそんなものッ」

「……はあ」

 ハジは残りのホットドックを一気に口に入れ、水筒に口をつけながら流し込む。


 打って変わって、真面目な表情になったハジは、

「ドロッセル、今回の任務(クエスト)。実はお前の最終試験だ」


 ドロッセルは意味がわからないようでポカンとし、

「……どういうことですか?」

「戦術長様は、お前の戦闘手アタッカーとしての心構えが不安みたいだ、俺もそう思う。今のお前に背中を任せられない」


 戦闘手アタッカーの仕事は、有り体に言えば殺し合いである。そういったことを落ち着いて行える人間は少ない。

 そのため、戦闘手アタッカーとなるものは幼少期の頃から、殺生事に対して免疫をつけるよう訓練をする。そうでなくては手は震え、足は竦むだろう。

 ドロッセルの模擬戦での様子が正にそれだ。明らかに訓練が不足している。


「多分、戦術班の人数がもっと多かったら模擬戦の段階でお前はクビだよ。そんで主計に回されてる」

「しかし、私はですね…… その…… え、英雄になるんです。ならなきゃいいけないんですッ! いろんな人を見返したいんですッ。主計班なんかに入れませんよ」


 ふざけて言っている様子ではなかった。

 それだけに、ハジの言い方はキツくなる。


「それはお前の事情だ、リンドヴルムの事情じゃない。お前のワガママのために戦闘手アタッカーがバタバタ死んでいったんじゃ、リンドヴルムが困るよ。だいたい、なんかとはなんだ。勘違いすんなよ、戦術班が主計班を支えているんじゃなくて、主計班が戦術班を支えているんだよ」

「うう」


 正論を前に、ドロッセルは返す言葉がない。略式制服カジュアルの丈を掴み、居心地の悪そうに身体を揺らす。


「ともかく、今回の任務が終わるまでに、“ドロッセルは戦える人間”だと俺に思わせてくれ、良いな?」

「はい……」


 ドロッセルは元気なくそう言った。


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