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誰が為の魔導技術  作者: 白牟田 茅乃(旧tarkay)
知っている事、知らない事
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グラディスⅠ

 四月七日、土曜日

 今日はリーグ戦の開幕戦の予定であった。

 だが、リンドヴルムの棄権は事前に決まっていた。そのため名目上の部隊チームを組んで試合会場に出向き、開始寸前に審判に棄権を告げた。

 グラディスはその名目上の隊長であった。

 棄権宣言はもっと早くできたが、ギリギリまで粘って、相手に入念な準備をさせれば、それは嫌がらせとなる。

 現に相手チームは戦う気満々だった。

 殺気を漂わせた相手と向きあうのは精神的にとても疲れる。もうこんなのはゴメンだ、とグラディスは思った。


 グラディスと他の三人がリンドヴルム寮に戻ってくると、ソファに座っていたシャロンは労いの言葉で迎え入れた。

「ご苦労様」

「凄く疲れました。戦術班はあんなのと戦うんですか、凄いですね」

「まあ、今頃は危険種と戦っているのだけど」

 一緒に試合会場にいった他の三人も同じように気疲れしているのか、ソファの上に倒れこむように横になった。

 そんな中の一人、ジャスパーに対しに小上がりの畳の上で緑茶を啜るオウルは、

「てめえ、今回の仕事忘れてないだろうな」

「ガッテン」


 彼は自慢のカメラを掲げ、自慢げにそう言った。

 色素の薄い金髪を刈り上げ丸いレンズの眼鏡を掛けて、ハンチング帽を欠かさない。軽薄そうな男だがジャーナリスト志望らしく、真剣な顔で雑誌を読んでいたり、事件の起こりそうな所をうろついている事が多い。

 オウルの下、情報班の一員として屋外で情報収集するのが彼の仕事だ。

 ジャスパーは小上がりの上の卓袱台にカメラを置き、魔術を起動すると、その上に表示枠フレームが現れ画像を映し出す。

 見た目は普通の二眼レフカメラのようであるが、魔術礼装、“記録機ログ・ボックス”である。

 二つあるレンズのうち片方が捉えた映像を記録し、再生する機能を持っている。

 元はミストリアス社製の物をジャスパーが改造したものだ。

 表示枠フレームには試合会場の上空からの映像が映し出される。

 そこにはファーストシーズンの試合会場である、ミュルゼン島の様子が鮮明に映し出されていた。


 オウルが表示枠フレームを覗き込むと、

「結構綺麗な発色だな」

「その分、魔導力エーテルバカ食いするけどな」

「実際に見た感想は?」

「薄暗かった、ピクニックには向かないな」


 それを聞いたオウルはジャスパーの耳を引っ張る。

 そんな中、シャロンはソファテーブルの上にある資料を手に取った。


 グラディスはそれが気になって、

「シャロン、どうしました?」

「いえ、感心していたのよ。大した時間もなかったのに良くここまで調べたものね」


 それは今日の対戦相手の資料だった。

 棄権するのは決まっていたのに、情報班は気を抜かずしっかりとした資料を用意していたのだ。


 情報班の仕事っぷりに感心したグラディスは、ジャスパーに向かって、

「そうですね、どうやって調べたんですか?」

「それは……」


 ジャスパーは困って、情報長オウルを見た。

 オウルは軽く自分のリーゼントを撫でると、黙って縦に首を振った。


 するとジャスパーは言い慣れないたどたどしい言葉で、

「“合法的な方法で、合法的な情報を集めた”んだよ」

「具体的には?」

 シャロンはジャスパーにではなく、オウルに聞いた。


 しばらくそうしていたオウルは、観念したように、

「魔導協会の広報誌とか、そういうのを読み込むんだよ小さい情報でも積み重ねて突きあわせりゃ結構な情報量になる」

「敵のアジトに侵入するとか、そういう映画見たいのはやらないんだぜ?」

 いかにも“受け売りです”というふうにジャスパーが続いた。


「へえ、そんな事でここまで詳細なデータが取れるの」


 シャロンはそう言うと、じっくり書類を眺めてから、

「オウルくん、一つ調べてもらいたい事があるのだけど」

「いいけど、なんだよ?」


 シャロンは頬に手を当て少し考え込んでから、オウルの胸倉を掴んで、寮の外に連れて出て行ってしまった。


 それを見たジャスパーは記録機ログ・ボックスを抱えて、後を追おうとする、

「はッ! スキャンダルの匂い?!」

「違うと思いますよ」

 グラディスは彼の首根っこを掴んでそう言った。

 戦術長と情報長、誰にも聞かれたくない話くらいあるだろうと、グラディスは思った。


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